外国人労働者の受入れを企業任せにしてよいのか【後編(の前半)】「日本版・外国人雇用ルール」の提案――外国人の「質」と「量」を国家として管理する

移民 出入国管理
令和7年末現在における在留外国人数について 出入国在留管理庁

はじめに――問題は「外国人を受け入れるか」ではなく、「誰が、どのようなルールで受け入れるか」

前編では、平成元年(1989年)の出入国管理及び難民認定法(略称「入管法」)改正以降、日本が基本的に採ってきた外国人労働者の受入れ政策について検討しました。
当時の日本政府の基本的な考え方は、簡潔にいえば、
「就労外国人の受入れ条件を設定することで、いわば『質』をコントロールし、その結果として受入れ人数も間接的にコントロールする」
というものでした。
この仕組みは、長い間、一定程度機能しました。
しかし、現在は状況が変わっています。
特に在留資格「技術・人文知識・国際業務」の在留外国人数は、2025年12月31日現在、47万5,790人に達しています。これは、現在の就労資格の中でも突出した規模です。
ここまで人数規模が拡大した以上、
「誰を受け入れるか」という『質』の管理だけで、今後も外国人受入れを企業の採用活動に委ね続けてよいのか。

という問いを、私たちは避けることができないのではないでしょうか。

私は、ここで必要なのは「外国人を受け入れない」という政策への転換ではないと考えます。
必要なのは、
「外国人を受け入れるのであれば、企業任せにせず、日本という国家が一定のルールを設け、責任を持って受入れを管理する」という政策への転換
です。
以下、私なりの制度改革の試案を提示します。

1 外国人の受入れは「企業の経営判断」だけでは決められない

まず、最も基本的な原則から始めます。
企業には、
「自社にどのような人材が必要なのか」
を判断する自由があります。
これは企業経営上、当然のことです。
しかし、
「企業にとって必要な人材である」ことと、「日本社会として、その外国人を受け入れることが適切である」ことは、同じではありません。
ここを明確に区別する必要があります。
企業は、外国人を採用しても、その雇用関係が終了すれば、原則としてその人との雇用関係を終えることができます。
しかし、国家にとっては、それで問題が終わるとは限りません。
外国人が日本で一定期間生活すれば、仕事だけではなく、
・住居
・家族関係
・子どもの教育
・地域社会とのつながり
・税・社会保険
・医療・福祉
・在留管理
など、日本社会とのさまざまな関係が形成されます。
さらに、在留期間が長くなれば、一定の要件の下で永住許可の対象となるなど、日本での在留が法的にも安定していく場合があります。
もちろん、これは「外国人を一度雇えば、国家が必ず受け入れ続けなければならない」という意味ではありません。
しかし、
企業にとっての「採用」と、国家にとっての「外国人の受入れ」は、時間軸も責任の範囲も異なる
ということは、政策を考える上で極めて重要です。
だからこそ、
外国人の受入れを企業の採用判断だけに委ねることはできない。
私は、これを外国人政策の基本原則とすべきだと考えます。

2 外国人を受け入れる条件を決めることは、主権国家の政策判断である

では、国家はどこまで外国人の受入れ条件を設定できるのでしょうか。
外国人の入国・在留・就労について、国家には広い政策裁量があります。
もちろん、その裁量も無制限ではありません。
日本国憲法、締結した国際条約その他の国際法上の義務を遵守する必要があります。
しかし、その範囲内において、
どのような外国人を、どのような条件で、どの程度受け入れるのか
を国家が制度として決定すること自体は、主権国家として当然に認められる政策判断です。
したがって、
「外国人の受入れ条件を設定すること自体が差別である」
と考える必要はありません。
重要なのは、
何のために、どのような合理的な基準によって、どのような受入れ条件を設定するのか
です。
例えば、
・国内人材の雇用機会を確保する
・労働条件の低下を防ぐ
・生産性向上を促す
・外国人労働者への過度な依存を防ぐ
・地域社会への過度な負担を防ぐ
・適正な在留管理を維持する
といった政策目的のために、外国人の受入れ条件を法律で定めることは十分検討に値します。

3 これから必要なのは「質」だけでなく「量」の管理もである

前編で述べたように、かつては「質」を選べば、結果として「量」もある程度コントロールできました。
しかし、在留資格「技術・人文知識・国際業務」だけで約47万6千人という規模になった現在、その発想をそのまま維持してよいのか。
私は、見直す時期に来ていると考えます。
つまり、
「誰を受け入れるか」だけではなく、「どの程度受け入れるのか」についても、国家が政策として管理する。
ということです。
ここで重要なのは、「量の管理」とは、必ずしも単純な一律人数制限を意味しないということです。
例えば、
・在留資格
・業種
・職種
・地域
・企業規模
・国内人材の確保状況
・労働市場の状況
などを考慮しながら、異なる仕組みを組み合わせることができます。

4 まず在留資格「技術・人文知識・国際業務」を対象に制度を見直す

今回、特に制度改革を検討すべきなのは、在留資格「技術・人文知識・国際業務」です。
なぜなら、在留資格「特定技能」とは制度の性格が異なるからです。
特定技能は、一定の「特定産業分野」に限って受入れを認める制度であり、生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお人材確保が困難な分野を対象としています。
さらに、特定技能には分野ごとの受入れ見込数、いわば受入れ上限が設けられています。現在の制度では、こうした上限を「日本人の雇用機会の喪失や処遇の低下等を防ぐ観点」も踏まえて設定する仕組みが明示されています。
したがって、
「外国人の受入れに量的な管理を導入すべきだ」
という問題意識は、特定技能についてはすでに一定程度制度化されています。
むしろ、問題は、
そのような量的管理が行われていない「技術・人文知識・国際業務」を今後も企業任せにしてよいのか
ということです。
私は、ここを新たな政策課題として検討すべきだと考えます。

5 在留資格「技術・人文知識・国際業務」にも受入れ規模の管理を導入する

そこで第一の具体的提案です。
在留資格「技術・人文知識・国際業務」についても、中長期的な受入れ規模を政府が検証し、必要に応じて調整できる制度を導入する。
ただし、いきなり、
「年間○万人まで」
と固定することが適切とは限りません。
まず、
・現在の在留者数
・今後の労働需要
・国内人材の供給可能性
・賃金・処遇の状況
・生産性向上の可能性
・AI・自動化等による代替可能性
・地域社会への影響
・教育・行政サービスへの影響
などを総合的に検証します。
その上で、
「今後5年間、日本社会としてどの程度の受入れが適切なのか」
という中期的な受入れ方針を策定する。
そして、その方針に基づいて、必要な場合には受入れ人数を調整できる制度とするのです。

6 企業ごとの外国人雇用にも「上限」という考え方を導入する

さらに踏み込んだ試案が、
企業ごとの外国人雇用比率に一定の上限を設ける
というものです。
例えば、
「外国人労働者は全従業員の○%まで」
という考え方です。
これは、外国人を差別するための制度ではありません。
また、
「外国人を採用してはいけない」
という制度でもありません。
むしろ、
「一企業が外国人労働者に過度に依存することを防ぐための社会政策上のルール」
です。
ただし、ここでは法制度上の慎重さが必要です。
企業規模も業種も異なる以上、一律の比率を法律だけで固定するのは適切ではありません。
したがって、
法律で「外国人雇用比率を管理できる」という基本原則を定め、その具体的な比率や例外については、業種・企業規模等を踏まえて政令・省令等で具体化する
という方法が考えられます。

7 上限規制は「一律○%」ではなく、合理的な区分を設ける

例えば、
・大企業と中小企業
・製造業とサービス業
・専門職と一般職
・都市部と地方
・国内人材の確保が容易な分野と困難な分野
では、外国人受入れの必要性が異なります。
したがって、
「すべての企業を同じ物差しで測る」のではなく、「合理的な区分ごとに基準を設定する」
ことが必要でしょう。
また、例外を設ける場合にも、
「企業が必要だと言えば認める」
という仕組みにしてはいけません。
例外を認めるための要件を法律・政令等で明確に定め、行政の恣意的な運用を防ぐ必要があります。

8 「外国人を採用する前に、国内人材への努力」を求める

第二の大きな提案です。
外国人を採用しようとする企業には、
国内人材を確保・定着させるために、どのような努力をしたのか
を一定程度示してもらう仕組みを設けます。

例えば、
・賃金・処遇の改善
・労働時間・休暇制度の改善
・女性の就業促進
・高齢者の活用
・就職困難者の就業促進
・職業訓練
・人材育成
・省人化・自動化
・業務の効率化
などです。
ここで重要なのは、
「日本人を採用できなかったから外国人を採用する」
という企業側の説明だけでは不十分だということ
です。
「なぜ日本人が来ないのか」を企業自身が検証し、その原因が賃金や労働条件、職場環境、生産性などにあるのであれば、まずそこを改善する。
その上でなお人材が不足する場合に、外国人の力を借りる。
私は、この順序を基本原則とすべきだと考えます。

9 ただし、行政の恣意的な審査になってはいけない

ここで、法制度として極めて重要な点があります。
「外国人を採用する前に、企業が国内人材の確保や処遇改善等に努めたことを行政が認定する」といっても、その判断を行政の自由裁量に委ねてしまってはいけません。
例えば、
「国内人材を十分に確保する努力をしたと当局が認めた場合に限る」
とだけ法律に書いたのでは、
「何をもって十分な努力とするのか」
が分かりません。
そのような制度では、企業にとって予測可能性がなくなるだけでなく、担当する行政機関によって判断が異なるなど、行政の恣意的な運用を招くおそれがあります。
それでは、「企業任せ」を改めて「行政任せ」にしただけです。
したがって、必要なのは行政の裁量を無制限に広げることではなく、行政が判断すべき事項そのものを法律・政省令等によってできる限り明確なルールにすることです。
例えば、
・一定水準以上の賃金・処遇を提示しているか
・一定期間、国内人材に対する求人を行ったか
・採用対象を不合理に限定していないか
・女性、高齢者、就職困難者等の活用に取り組んでいるか
・職業訓練や人材育成を行っているか
・生産性向上、省人化・自動化等に取り組んでいるか
など、客観的に確認できる事項を基準として設定することが考えられます。
さらに、行政が外国人雇用を認めない場合には、その理由を明示し、企業が不服を申し立てることのできる手続も整備する必要があります。
つまり、
「企業任せ」から「行政任せ」へ移行するのではなく、「企業の自由な採用判断の上に、法律に基づく明確な国家的ルールを置く」
これが、この提案における基本的な考え方です。

10 「外国人雇用計画」の提出を求める

そこで、制度としては、
一定規模以上の外国人雇用を行おうとする企業に「外国人雇用計画」の提出を求める
という仕組みが考えられます。
計画には、
・現在の従業員数
・現在の外国人従業員数
・今後の外国人採用予定数
・国内人材の採用実績
・賃金・処遇改善の状況
・生産性向上・省人化への取組
・外国人労働者の日本語・生活支援
・地域社会との共生への取組
などを記載します。
そして一定の要件を満たした場合に、外国人雇用を認める。
これなら、
「外国人を採用するな」
という制度ではなく、
「外国人を採用するなら、その必要性と受入れ後の責任を説明してください」
という制度
になります。

11 企業が負担すべきなのは「採用コスト」だけではない

なぜここまで企業に求めるのでしょうか。
理由は明確です。
外国人を雇用することで企業が得る利益と、日本社会が負担する可能性のあるコストが、必ずしも一致しないからです。
企業にとっては、
「人材を確保できた」
ことで問題が解決するかもしれません。
しかし社会には、
・日本語教育
・子どもの教育
・行政窓口
・生活ルールの周知
・地域社会との調整
・住宅問題
・税・社会保険
・在留管理
・治安上の対応
などの問題が生じる可能性があります。
もちろん、外国人が増えれば必ずこれらの問題が発生するという意味ではありません。
しかし、
受入れによって生じる社会的影響を、企業の経営判断だけで無視することはできない
ということです。

12 だから「企業が必要だから」だけでは受入れの理由にならない

ここで、外国人受入れについての考え方を一段深く整理したいと思います。
企業が、
「人手が足りない」
と言う。
これは企業にとっては事実かもしれません。
しかし国家が問うべきなのは、
「なぜ人手が足りないのか」
です。
賃金が低いからなのか。
労働条件が悪いからなのか。
生産性が低いからなのか。
業務の効率化が遅れているからなのか。
国内人材の活用が不十分だからなのか。

それとも、本当に国内では必要な人材を確保できないのか。
この検証をしなければなりません。
だからこそ、
「外国人を採用すれば人手不足が解決する」という短絡的な発想から、「なぜ人手不足なのかを検証した上で、それでも必要なら外国人を受け入れる」という発想へ転換する
必要があります。

後段(の後半)へ続く

\ 最新情報をチェック /

トップへ戻る
タイトルとURLをコピーしました