なぜ今、あらためて日本の外国人受入れ政策を論じるのか【第3部】「移民」とは誰のことを指すのか――定義が違えば議論もかみ合わない

第2部では、「外国人政策」「出入国・在留管理政策」「移民政策」という三つの言葉の違いを整理しました。
今回は、その中でも最も誤解されやすい「移民」という言葉について考えます。
実は、日本では「移民」という言葉が一人歩きしています。
「日本は移民国家ではない。」
「いや、もう移民国家だ。」
このような議論を目にすることがありますが、冷静に考えてみると、お互いが同じ意味で「移民」という言葉を使っているとは限りません。
まず、この点を整理することが必要です。

「移民」には世界共通の法律上の定義はない

意外に思われるかもしれませんが、「移民」には世界共通の法的定義はありません。
例えば、国際連合広報センターは、多くの専門家の考え方として、
 移住の理由や法的地位に関係なく、居住国を変更した人々
を国際移民として説明しています。
つまり、
留学生であっても、
海外転勤(海外駐在勤務)であっても、
修業を積むために海外で働く料理人であっても、
一年以上居住国を変えて暮らせば、広い意味では「国際移民」に含める考え方です。

各国の制度上の「移民」の意味も一様ではない

一方で、各国の法制度や行政実務では、「移民」という言葉の使い方は必ずしも同じではありません。
例えば、アメリカでは、一般に「移民(immigrant)」とは、永住権(グリーンカード)を取得して永住を前提に入国・滞在する人を指します。これに対し、留学生や企業から派遣された駐在員などは、長期間滞在していても通常は「非移民(non-immigrant)」として区別されています。
また、オーストラリアやカナダなどでも、永住資格を取得して受け入れられる人を中心に移民政策が組み立てられており、永住者と一時滞在者を制度上明確に区別しています。
このように、「移民」という言葉は、国際機関が統計上用いる広い意味と、各国が制度上用いる意味とで異なることが珍しくありません。

日本政府はどう説明してきたのか

日本政府は長年、
 「我が国はいわゆる移民政策は採らない」
という立場を繰り返し説明してきました。
その代表的な答弁が、平成29年2月8日の衆議院予算委員会における法務大臣答弁です。
この国会答弁では、
 入国と同時に無期限の在留を認める制度を移民制度と考えるのであれば、
 日本はそのような制度を採っていない
という趣旨の説明が行われています。

つまり、日本政府は、
 「アメリカ型の移民制度は採っていない」
という意味で、
 「日本は移民政策を採っていない」
と説明しているのです。

しかし、それだけで議論は終わらない

ここで注意しなければならないことがあります。
日本には、
永住許可制度があります。
帰化制度もあります。
外国人が一定期間日本で生活し、
一定の要件を満たせば、
永住許可を取得することも、
日本国籍を取得することもできます。
つまり、
入国したその日から永住する制度ではないとしても、
結果として日本へ定住していく外国人は存在するのです。
この現実をどう評価するかは、
まさに政策論になります。

だから定義を確認してから議論する必要がある

ここまで見てきたように、
「移民」という言葉は、
どの定義を採用するかによって、
対象となる人が変わります。
この違いを確認しないまま、
「移民政策に賛成」
「移民政策に反対」
と言っても、
議論は噛み合いません。
実際には、
違う定義で話をしていることが少なくないからです。

このシリーズでの「移民」の考え方

本シリーズでは、
特定の定義だけが正しいとは考えません。
国際機関の考え方も紹介します。
日本政府の説明も紹介します。
必要に応じて諸外国の制度も紹介します。
その上で、
「ここではどの意味で移民という言葉を使っているのか」
をできるだけ明確にしながら議論を進めていきます。
言葉の定義を曖昧にしたまま制度設計を論じることはできないからです。

おわりに

「移民」という言葉は、
賛成・反対以前に、
まず意味を共有することが必要です。
定義が違えば、
結論が違って見えるのは当然です。
だからこそ、
このシリーズでは、感情的なイメージではなく、
制度や法律に基づいて、一つひとつ整理しながら考えていきます。

次回は、日本政府が繰り返し説明してきた「日本は移民政策を採っていない」という言葉の意味を、国会答弁や制度の実態を踏まえながら、もう少し詳しく考えてみたいと思います。

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