制度を理解するには、制度が作られた目的を見る必要がある
前回、第11部では、
制度設計は、まず
「何のためにその制度を設計するのか」
という目的から考えなければならないことを述べました。
では、日本の外国人受入れ政策において、大きな転換点となった平成元年(1989年)の入管法改正は、どのような目的のもとで行われたのでしょうか。
ここで大切なのは、
「制度がどう変わったか」だけを見ることではありません。
まず、
「政府は何を目的として制度を見直したのか」
を知ることです。
制度設計は、その目的から理解しなければ、本来の姿は見えてきません。
政府が掲げた基本的な政策目的
平成元年入管法改正に当たり、政府は、その背景として、
「国際協調・国際交流の増進に寄与することの重要性」
を挙げました。
その上で、
「我が国社会の健全な発展のために有益となるように外国人の適正な受入れの方式を確保する必要がある」
という考え方を示しています。
ここで注目したいのは、
政府が掲げた目的は、
外国人をできるだけ多く受け入れることでも、
逆に、できるだけ受け入れないことでもなかったという点です。
政府が目指したのは、
「適正な受入れ」
という制度設計でした。
つまり、
外国人を受け入れること自体が目的ではなく、
日本社会にとって有益となるような受入れの仕組みを整えることが目的だったのです。
就労資格の見直しも、その目的から考えられた
この考え方は、就労資格の整備にも表れています。
政府は、
専門的な技術、技能又は知識を必要とする業務、
あるいは、
日本人では代替できない外国の文化に基盤を有する思考や感受性を必要とする業務については、
外国人を受け入れることが、
日本の経済や社会の活性化・発展に資すると考えました。
もっとも、
それは無条件の受入れではありません。
一定の技術・技能・知識・経験などを有すること、
そして、
受け入れた外国人に対して適切な在留管理が行われることを前提として、
国内雇用への悪影響や社会問題が生じるおそれは少ない、
という考え方が示されました。
つまり、
ここでも、
「何人受け入れるか」
ではなく、
「どのような外国人を、どのような目的で受け入れるか」
という制度設計の考え方が基本になっていたのです。
ここで重要なのは「目的」と「制度」の関係である
ここで改めて確認しておきたいことがあります。
平成元年改正では、在留資格制度そのものが新しく作られたわけではありません。
在留資格制度は、それ以前から存在していました。
平成元年改正では、社会や経済の変化に対応するため、在留資格の整理・拡充・見直しなどが行われたのです。
つまり、制度そのものをゼロから作り直したのではなく、その時代の政策目的に合わせて制度を見直した、ということになります。
しかし、その意味は決して小さくありません。
現在の日本の外国人受入れ制度の基本的な枠組みは、その後の制度改正を重ねながらも、この平成元年改正を重要な出発点の一つとして発展してきました。
だからこそ、この改正を理解することは、現在の制度を理解することにもつながります。
そして、ここから分かることがあります。
制度設計とは、制度だけを独立して考えるものではありません。
その時代の政策目的を踏まえ、それを実現するための手段として制度を設計し、社会の変化に応じて見直していく営みなのです。
制度設計は、その後も変わり続ける
もちろん、
平成元年改正によって、
すべての課題が解決したわけではありません。
その後、
日本社会はさらに変化しました。
少子高齢化は進み、
産業構造も変わりました。
経済の国際化も進みました。
すると、
制度に求められる役割も少しずつ変わっていきます。
制度設計とは、
一度作れば終わりではなく、
社会の変化に応じて見直し続ける営みでもあるのです。
次回予告
では、
平成元年改正の後、
制度はどのように運用され、
どのような新しい課題に直面していったのでしょうか。
次回は、
平成以降の社会変化を踏まえながら、
制度設計と現実社会との間に生じていった課題について考えていきたいと思います。
