データで読み解く 日本の夏③これから日本の夏はどうなるのか?――最新の研究が示す未来と私たちにできること

時代の一歩先
環境省熱中症予防情報サイト

「データで読み解く 日本の夏」は、近年の夏の暑さや気候変動について、観測データや研究成果をもとに、できるだけ中立的・科学的な視点から分かりやすく解説するシリーズです。印象や思い込みではなく、データから見えてくる日本の夏の姿を、一緒に考えていきます。

はじめに

「2100年、日本の夏はどうなっているのでしょうか。」
まるでSF映画のような問いに聞こえるかもしれません。
しかし、この問いに答えようとしているのが、世界中の気候学者たちです。
もちろん、未来を正確に予言できる人はいません。
それでも、長年にわたる観測データと物理法則に基づく気候モデルを使えば、「このままいけば、どのような変化が起こる可能性が高いのか」を予測することはできます。
では、最新の研究は、日本の夏の未来をどのように描いているのでしょうか。

「予言」ではなく「予測」

まず知っておきたいのは、気候予測は「未来を言い当てる」ものではないということです。
天気予報は数日先の天気を予測しますが、気候予測は2050年頃や2100年頃といった長い期間の変化を考えます。
しかも、未来を一つだけ示しているわけではありません。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などは、温室効果ガスの排出量など、いくつかのシナリオごとに将来を予測しています。
つまり、未来は一本道ではありません。
私たちがこれからどのような社会を選び、どのような取り組みを進めるかによって、未来の姿は変わり得るのです。

日本の夏はどう変わると予測されているのか

それでは、日本の夏については何が分かっているのでしょうか。
現在、多くの研究で共通して示されているのは、
・平均気温は上昇する可能性が高いこと
・猛暑日や熱帯夜が増える可能性が高いこと
・極端な高温が現れる頻度が高まると考えられること
です。
もちろん、毎年同じような暑さになるわけではありません。
冷夏になる年もあるでしょう。
しかし、長い期間で見ると、「暑い夏」が現れる頻度は高くなると予測されています。

「平均が少し変わるだけ」が大きな違いを生む

「平均気温が1℃くらい上がるだけなら、それほど変わらないのでは?」
そう思う人もいるかもしれません。
しかし、統計では平均が少し動くだけでも、極端な現象は大きく増えることがあります。
サイコロを思い浮かべてください。
もし「6」が出る確率がほんの少し高くなれば、何度も振るうちに「6」は以前よりずっと多く現れます。
気温も同じです。
平均気温が少し上昇するだけで、35℃を超える猛暑日や、これまでなら「めったにない」と考えられていたような極端な高温の日が現れやすくなるのです。

私たちの暮らしも変わり始めている

こうした予測を聞くと、不安になる人もいるでしょう。
しかし、変わっているのは気候だけではありません。
私たちの暮らし方や社会の仕組みも、暑さに合わせて少しずつ変わり始めています。
例えば、学校では暑さ指数(WBGT)を参考にして、体育や部活動を中止・短縮したり、運動会の日程や実施方法を見直したりする学校が増えています。
休み明けには、急に激しい運動を始めるのではなく、体を暑さに慣らす「暑熱順化」を意識した指導も行われるようになってきました。
部活動でも、練習時間を早朝や夕方の比較的涼しい時間帯へ移したり、屋外練習を屋内へ変更したり、こまめな休憩や水分・塩分補給を徹底したりするなど、暑さに応じた工夫が広がっています。
地域社会でも変化が見られます。
近年は、図書館や公民館、商業施設などを「クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)」として開放し、危険な暑さから一時的に避難できる場所を整備する自治体が増えています。
また、街路樹や公園の緑を増やしたり、建物の断熱性能を高めたりするなど、都市そのものを暑さに強くしようという取り組みも進められています。
農業や建設業など屋外で働く現場でも、作業時間を早朝へ移したり、空調服などを活用したりすることが珍しくなくなりました。
エアコンも、かつては「ぜいたく品」と考えられることがありましたが、今では熱中症から命を守るために欠かせない設備という認識が社会に広がっています。
このように、気候に合わせて暮らし方や社会の仕組みを工夫していくことも、「適応」と呼ばれる大切な取り組みなのです。

科学は未来を決めるものではない

ここまで見てきたように、現在の研究では、日本の夏はこれからさらに暑くなる可能性が高いと予測されています。
しかし、それは「未来は必ずこうなる」と宣言しているわけではありません。
科学が示しているのは、「現在のデータから見れば、このような未来になる可能性が高い」ということです。
そして、その未来は、私たちの選択や社会の取り組みによって変わる可能性があります。
だからこそ、気候予測には一つではなく、複数のシナリオが示されているのです。

おわりに

この三回にわたって、「日本の夏」を観測データや研究成果から見てきました。
第1回では、「昔の夏は本当に今ほど暑くなかったのか」を観測データで確かめました。
第2回では、「なぜ暑くなったのか」を、一つの原因ではなく、複数の要因が重なっていることから考えました。
そして今回、第3回では、「これから日本の夏はどうなるのか」を最新の研究成果から見てきました。
私が子どもの頃に当たり前だった夏の風景は、この数十年で少しずつ変わってきました。
しかし、「昔は良かった」「これから先が心配だ」という印象だけでは、未来を正しく理解することはできません。

大切なのは、思い込みではなく観測データを見て、何が分かっていて、何がまだ分かっていないのかを知ることです。
日本の夏は、これからも変わっていくでしょう。
その変化を正しく理解し、一人ひとりが、そして社会全体が上手に備えていくこと――。
それこそが、これからの日本の夏と付き合っていくための第一歩なのだと、私は思います。

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