北村晴男氏の『離婚と永住許可取消し』論をどう考えるか――SNSで膨らむ期待と、政治的な「期待値操作」という可能性

最近、参議院議員で弁護士でもある北村晴男氏の外国人政策をめぐる発言が、SNS上で大きな話題になっています。
その一つが、日本人との結婚を理由に永住許可を得た外国人が、その後離婚した場合の扱いです。
「離婚したら永住権を取り消すべきだ」
このような言葉がSNS上では目立ちます。
しかし、ここで一度立ち止まって、北村氏本人が実際に何を述べたのかを確認してみる必要があります。
というのも、本人の国会での発言と、SNS上で流通している「離婚したら永住権取消し」という単純化された言説との間には、微妙ですが重要な違いがあるからです。
なお、法律上の正式な用語は「永住権」ではなく「永住許可」および「永住者」です。
北村氏自身も、2026年6月2日の参議院法務委員会での質疑では、一貫して「永住許可」という法律上の表現を用いています。
もっとも、後日のXでは本人自身が「永住権」という一般的な表現も使用しています。したがって、本稿では法律上の議論については原則として「永住許可」「永住者」と表記し、本人のSNS上の発言を引用する場合には、その原文に従って「永住権」と表記することにします。

北村氏は国会で何を問題にしたのか

2026年6月2日の参議院法務委員会で、北村氏は「日本人の配偶者等」の在留資格などについて質問したうえで、日本人との結婚を理由として永住許可を得た外国人が、その後離婚した場合の問題を取り上げました。
参議院公式資料にも、北村氏の質問項目として、
「永住許可を得た日本人の配偶者が離婚した場合の永住許可の取消し事由を検討する必要性」
と明記されています。
そして質疑の中で、北村氏は、
「現行制度上、一度永住許可を得ると、離婚しても、そのことをもって永住許可が取り消されることはない」
という現状認識を示しました。
そのうえで、日本人の配偶者であることによって一定の要件が緩和されて永住許可を得た外国人について、
「離婚した場合には原則この永住許可を取り消すことができるという方向で検討することが適切ではないか」
という趣旨の問題提起をしています。
ここで重要なのは、北村氏が国会で述べたのは、単純な
「離婚した外国人は全員、直ちに永住許可を失わせるべきだ」
という一文ではないということです。
「原則として取消しを可能とする方向で検討する」という制度論を提示した、と読むのが適切でしょう。

現行制度では、離婚しただけで永住許可が取り消されるわけではない

この点も確認しておく必要があります。
現在の制度では、日本人との婚姻を理由として在留している「日本人の配偶者等」と、すでに「永住者」の在留資格を取得している外国人とは、法的には別の問題です。
「日本人の配偶者等」の在留資格であれば、離婚によって配偶者としての在留資格の基礎を失います。
しかし、すでに永住許可を受けて「永住者」の在留資格を取得している場合には、離婚したという事実だけで自動的に「永住者」の在留資格を失うわけではありません。
だからこそ北村氏は、現在の制度そのものを問題にしているわけです。
「結婚を利用して永住許可を取得した者が、取得後に離婚しても、そのこと自体では永住許可を失わない」
という制度の在り方について、再検討を求めているのです。

しかし、「離婚=永住許可取消し」と単純化してよいのか

こからが、私自身が考えたい問題です。
私は、結婚を悪用して永住許可を取得するようなケースが存在するのであれば、その防止策を検討すること自体には合理性があると思います。
しかし、
「離婚した」という一事だけをもって、永住許可を機械的に取り消す制度
が本当に適切なのかについては、慎重に考える必要があります。
例えば、
・婚姻期間が極めて短い
・婚姻そのものに虚偽が疑われる
・永住許可を取得して間もなく離婚している
・日本での生活実態がほとんどない
・婚姻が永住許可取得のためだけに利用された疑いが強い
というケースと、
・長期間にわたって実際に夫婦として生活してきた
・日本人との間に子どもがいる
・子どもが日本社会の中で生活している
・永住許可取得後も長期間日本で生活している
・地域社会や職場などに安定した生活基盤を築いている
というケースまで、同じように扱ってよいのでしょうか。
私は、ここには明確に区別して考える余地があると思います。

「熟年離婚」のようなケースもある

もう一つ、忘れてはいけないことがあります。
それは、日本人同士の夫婦でも、長年連れ添った末に離婚することが珍しくないということです。
いわゆる「熟年離婚」です。
外国人配偶者についても、それは同じでしょう。
例えば、日本人と外国人が結婚し、20年、30年と一緒に暮らしてきた。
その間に子どもも生まれ、子どもは日本の学校で育った。
外国人配偶者自身も日本で仕事をし、税金を納め、地域社会の中で生活してきた。
そして、夫婦関係が長い年月を経て破綻し、双方の合意によって離婚した。
このようなケースまで、
「日本人と結婚したから永住許可を得た。離婚したのだから永住許可を取り消す」
と一律に扱うことが、本当に公平なのでしょうか。
私は疑問を感じます。

さらにDV(配偶者からの暴力)など、本人の責任ではない離婚もある

もちろん、さらに慎重に考えなければならないケースがあります。
DV(配偶者からの暴力)などによって外国人配偶者が離婚を余儀なくされるケースです。
仮に「離婚したら永住許可を取り消す」という制度を機械的に導入すれば、被害を受けた側が、さらに在留上の不利益まで受けることになりかねません。
これは制度設計上、十分に考慮されなければならない問題です。
したがって、仮に将来、離婚を永住許可取消しの一つの検討事由にするとしても、
「離婚したかどうか」だけではなく、「どのような経緯で離婚に至ったのか」
まで考慮できる制度でなければならないでしょう。

子どもの存在も無視できない

さらに重要なのが、子どもの問題です。
例えば、日本人との間に生まれた子どもが日本で生活している場合、その子どもの利益をどう考えるのか。
外国人親の永住許可を取り消すことによって、結果として日本人の子どもの生活まで不安定にしてしまう可能性があります。
したがって、この問題は単純な「外国人対日本人」という構図だけでは捉えられません。
家族として日本社会の中で形成されてきた生活実態をどう評価するのか、という問題でもあるのです。

北村氏の問題提起と、SNS上の言説は分けて考えるべきだ

ここで、今回私が特に気になったことがあります。
それは、北村氏本人の国会での問題提起と、SNS上で広がっている言説との間に、かなりの温度差があることです。
SNSでは、
「離婚したら永住権取消しは当然」
「結婚で取ったのだから離婚したら失うべき」
といった、非常に単純化された意見が目立ちます。
一方で、北村氏本人は国会では「永住許可」という法律上の概念を前提として、現行制度の問題点と取消事由の検討を求めています。
もちろん、北村氏はその後のXで、
「離婚情報を市町村から入管当局に自動的に通知し、永住権を取り消すシステムを作るべきです」
とも発信しています。
ですから、本人が「永住権」という表現を使っていない、とまで言うことはできません。
しかし、それでも国会での正式な問題提起と、SNS上で「離婚したら即、永住許可取消し」と単純化されることとは、区別して考える必要があります。

そして、私は一つの「仮説」が気になっている

ここから先は、事実の指摘ではなく、あくまで私自身の仮説です。
北村氏は弁護士、つまり法曹家です。
少なくとも、国会という公式の場で法制度について質問する以上、法律論として全く筋の通らない主張をするとは考えにくい。
ところがSNSを見ていると、北村氏本人の問題提起以上に、
「離婚したら永住許可を取り消す」
という単純化された、非常に強い期待が膨らんでいるように見えます。
そこで、私は少し気になるのです。
これは本当に、北村氏を支持する人たちが、純粋に期待を膨らませているだけなのでしょうか。
それとも、北村氏を将来、
「話が違うではないか」
「腰砕けになった」
「裏切った」
と批判するために、あえて極端な期待を先に作り上げているような動きまで含まれているのでしょうか。

「期待値操作」という可能性

もちろん、後者については、現時点で何らかの証拠があるわけではありません。
「アンチ北村派が支持者のふりをしている」
と断定することもできません。
したがって、これはあくまで仮説として提示しておきたいと思います。
ただ、政治の世界では、
本人が言ったこと以上の期待を周囲が勝手に作り上げ、その期待を基準にして、後から本人を「裏切った」と批判する
という現象が起こることがあります。
もし今回もそのようなことが起こるのであれば、注意しなければなりません。
北村氏が実際に何を主張しているのか。
そして、将来どのような制度を提案するのか。
その一次情報を確認することが重要です。

「悪用には厳しく、正当な定着には公平に」

私は、この問題を考える際には、次の二つを同時に成立させる必要があると思います。
結婚制度を悪用した永住許可取得には厳しく対応する。
しかし同時に、
長年日本で生活し、日本社会に実質的に定着した人については、離婚という一事だけで機械的に不利益を与えない。
この二つは、決して矛盾しません。
むしろ、本当に公平な制度を作ろうとするなら、この二つを両立させることが必要なのではないでしょうか。
だからこそ、
「離婚したか、していないか」
だけを見るのではなく、
・婚姻の実態
・婚姻期間
・永住許可取得からの期間
・日本での生活実態
・子どもの存在
・離婚に至った事情
・DVなどの被害の有無
・日本社会への定着状況
などを総合的に考慮する制度設計が必要になるのではないかと思います。

大切なのは「誰が言ったか」ではなく「何を制度化するか」

北村氏の問題提起について、私は賛成か反対かを急いで決める必要はないと思っています。
むしろ重要なのは、
「悪用された永住許可をどう防ぐのか」
という問題提起そのものと、
「正当に日本社会に定着した人をどう公平に扱うのか」
という問題を、同時に考えることです。
そして最終的には、
「北村氏が何と言ったか」
だけではなく、
どのような制度案にするのか。
そこを見るべきでしょう。
自動的に離婚情報を通知する仕組みを作るのか。
通知を受けた後に個別審査をするのか。
取消しではなく、一定の場合に再審査の対象とするのか。
婚姻の悪用が疑われる場合と、長年の実質的な家族生活の後に離婚した場合を区別するのか。
DVや子どもの利益をどのように保護するのか。
こうした具体的な制度設計こそが、本当の論点です。

SNSの「期待」ではなく、本人の言葉と制度案を見る

今回の問題を通じて、私は改めて、SNS時代の政治の難しさを感じました。
政治家本人が比較的慎重に制度論を語っていても、それがSNSに流れると、
「○○したら即取消し」
「○○を全面禁止」
といった、分かりやすく強い言葉に変換されることがあります。
その結果、政治家本人がまだ言ってもいないことまで「公約」のように受け止められ、後になって、
「期待を裏切った」
という話になってしまう。
これは、政治家にとっても、国民にとっても、決して健全なことではありません。
だからこそ私は、今回の北村氏の発言についても、
SNSで膨らんだ「期待」ではなく、本人の一次情報を確認する。
そのうえで、
実際にどのような法制度を提案するのかを見る。
この姿勢が大切だと思います。
北村氏の問題提起には、検討に値する部分があります。
しかし同時に、「離婚=永住許可取消し」という単純な制度では、さまざまな不公平が生じる可能性もあります。
結局のところ、目指すべきなのは、
「悪用には厳しく、正当な定着には公平に」
という制度ではないでしょうか。
そして、北村氏が今後この問題をどのような具体的な法制度として形にしていくのか。
私は、SNS上の賛否よりも、そこを注意深く見ていきたいと思います。

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