外国人政策を「厳格化」から「体系化」へ――日本版ルール主義から考える/第Ⅲ部 「日本版ルール主義」で外国人政策を一つの体系にする

移民 出入国管理

第7章 「厳格化」と「日本版ルール主義」は同じではない

ここまで見てきたように、高市政権は現在、外国人政策のさまざまな分野で制度の適正化や審査の厳格化を進めています。
これは、個々の制度に問題があるのであれば、それを見直すという意味で必要な対応でしょう。
しかし、私は、ここで一つ区別しておきたいと思います。
「外国人政策を厳格化すること」と、「外国人政策を一つの体系として構築すること」は、同じではありません。
個々の在留資格について審査を厳しくする。
永住許可の要件を見直す。
不法滞在への対応を強化する。
日本語や日本の制度・ルールを学ぶ機会を設ける。
これらは、それぞれ重要な政策です。
しかし、それらを個別に積み重ねるだけでは、「日本は外国人をどのような考え方で受け入れる国家なのか」という全体像は、まだ見えてきません。
そこで必要になるのが、私がこれまで述べてきた「日本版ルール主義」という考え方です。
これは、外国人を一律に厳しく扱うという意味ではありません。
また、外国人の受入れそのものを否定する考えでもありません。
そうではなく、
「誰を、なぜ、どのような条件で受け入れ、どこまで在留を認め、日本社会への秩序ある参加をどのように実現し、長期在留・永住・帰化をどう位置付け、ルール違反にはどう対応するのか」
を、あらかじめ一つの政策体系として明確にするという考え方
です。

第8章 「受入れ」から「帰化」までを一本の政策の流れとして考える

外国人政策を体系化するのであれば、政策の入口だけを見ていてはいけません。
私は、少なくとも次のような流れを一つの政策体系として考える必要があると思います。
受入れの目的
 ↓
受入れ可能な規模と社会的な受入れ能力
 ↓
誰を、どの在留資格で、どの分野に受け入れるのか
 ↓
どのような条件で在留を認め、更新を認めるのか
 ↓
日本語・生活・制度・ルールを含め、日本社会への秩序ある参加をどう実現するのか
 ↓
長期在留をどのように位置付けるのか
 ↓
永住をどのような条件で認めるのか
 ↓
帰化によって日本国民となることを、どのように位置付けるのか
 ↓
ルール違反や在留資格の不正利用などに、どのように対応するのか
この一連の流れを、ばらばらの制度としてではなく、相互に関連する政策として考えるのです。
例えば、入口で「一時的な人材」として受け入れた在留資格が、実際には何度も更新され、長期間の在留につながっていくのであれば、その結果として日本社会との関係がどのように変化するのかまで考えておかなければなりません。
逆に、長期的に日本で生活することを制度として想定するのであれば、日本語、生活上のルール、税・社会保険、地域社会との関係などについて、どのような権利と責務を求めるのかを明確にしておく必要があります。
つまり、
「入国させること」だけを政策として考えるのではなく、「その後」を含めて政策を設計する。
これが体系化の基本だと思います。

第9章 「量」も「質」も「期間」も、国家として考える

外国人政策については、これまで「何人受け入れるのか」という量の問題がしばしば議論されてきました。
もちろん、量は重要です。
しかし、人数だけでは政策になりません。
同じ10万人でも、どの在留資格なのか、どの分野なのか、どの地域に住むのか、どの程度の日本語能力が必要なのか、どの程度の期間、日本に滞在することを想定しているのかによって、日本社会への影響は異なります。
したがって私は、外国人政策を考える際には、
「質」だけでもなく、「量」だけでもなく、「期間」も含めて考える必要がある
と思っています。
たとえば、政府は現在、「外国人の受入れの基本的な在り方」を検討するワーキンググループを設け、将来の在留外国人数等の推計や、外国人が社会経済のさまざまな面に与える影響などについて議論しています。
これは、まさに外国人政策を「人数だけ」の問題から、より長期的な政策として考えるための検討と言えるでしょう。
さらに、すでに特定技能・育成就労については、分野別の受入れ見込み数を設定し、国内人材の確保や生産性向上を行ってもなお不足すると見込まれる範囲を受入れの条件とする仕組みが示されています。
私は、このような考え方を一部の制度だけにとどめず、外国人政策全体について、
「日本社会には何が必要なのか」
「どこまで受け入れることが可能なのか」
「受け入れた人が、どのような在留経路をたどることになるのか」
という観点から検討することが必要だ
と考えます。
その意味で、第Ⅱ部で述べた「社会統合先行原則」も重要になります。
受入れ人数を先に決めてから、後になって日本語教育や学校、住宅、医療、自治体の負担などへの対応を考えるのではなく、
「日本社会にどの程度の受入れ能力があるのか」を確認した上で、受入れの規模や分野、条件を考える。
これが「日本版ルール主義」の一つの柱になるのではないでしょうか。

第10章 ルールは「厳しくする」だけではなく、「明確にする」

もう一つ重要なのは、ルールの明確性です。
外国人政策について「もっと厳しく」という言葉だけが先行すると、何をもって厳しくするのかが曖昧になってしまいます。
しかし、本当に必要なのは、単純な厳しさではありません。
誰に、どの条件を求めるのか。
どの条件を満たせば、どのような在留が認められるのか。
条件を満たさなければ、なぜ認められないのか。
こうした基準を、できるだけ明確にすることです。
そして、そのルールは外国人だけに向けられるものではありません。
行政側にも、同じように求められます。
法律に基づいて制度を運用すること。
行政判断の基準を明確にすること。
制度の運用状況を検証できるようにすること。
問題があれば制度を見直すこと。
そして、国民に対して政策の目的と結果を説明すること。
つまり、「日本版ルール主義」とは、外国人にルールを守らせるというだけの話ではありません。
外国人を受け入れる側である日本政府も、またルールに基づいて政策を運営する。
そこまで含めて、私は「ルール主義」と考えています。

第11章 「外国人依存型」から「外国人補完型」へ

ここで、外国人労働者の受入れについて、もう一つ重要な視点があります。
日本では、人手不足への対応として外国人材の受入れが進められてきました。
もちろん、外国人材が日本社会を支えている分野はあります。
しかし、人手不足があるからといって、外国人を受け入れ続ければよいということにはなりません。
なぜなら、それによって企業の生産性向上、賃金の改善、省力化、業務の効率化、国内人材の確保などの努力が遅れる可能性もあるからです。
そこで私は、これまで、
「外国人依存型」から「外国人補完型」へ
という考え方を提案してきました。
外国人材を、日本社会が自らの構造改革を進めるまでの「穴埋め」として無制限に受け入れるのではなく、日本人だけでは不足する部分を、適切な条件の下で外国人材によって補完する。
その際にも、
「その仕事は本当に外国人材を必要としているのか」
「国内人材の確保や生産性向上では対応できないのか」
「外国人材を受け入れることによる社会的コストはどの程度なのか」
という検証が必要です。

特に、介護、地方の公共交通、過疎地域の医療、インフラ維持など、社会にとって必要でありながら市場原理だけでは維持しにくい仕事については、外国人受入れだけに問題を解決させるのではなく、賃金、財政、地域政策、業務の効率化などを含めた別の政策対応も必要でしょう。
外国人材の受入れを否定するのではありません。
外国人材を必要とする日本社会そのものの在り方を、同時に考えるべきだ
ということです。

第12章 「日本版ルール主義」は、外国人を排除するための思想ではない

ここまで読んでいただくと、「それでは、外国人に厳しい政策を求めているのではないか」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、私が提案しているのは、外国人排除の政策ではありません。
むしろ、ルールを明確にすることによって、ルールを守って生活する外国人の権利と立場を安定させることも重要だと考えています。
政府自身も、2026年1月の総合的対応策について、ルールを守って生活する外国人も含め、日本人と外国人の双方が安全・安心に生活する社会を目指すという考え方を示しています。
また、高市首相も2026年7月の記者会見で、外国人の受入れの基本的な在り方について、将来推計などを踏まえて本年度中に基本方針を取りまとめる方針を説明しています。
私は、この現在進められている検討に対して、次のような視点を加えてほしいと思います。
外国人を受け入れるのか、受け入れないのか。
という二者択一ではありません。
また、
外国人政策を厳しくするのか、緩くするのか。
という単純な二択でもありません。
問うべきなのは、
「日本は、どのような外国人を、何のために、どの程度受け入れ、どのような条件で日本社会への参加を認め、長期在留・永住・帰化をどのように位置付けるのか」
ということです。
そして、その政策を、場当たり的な制度改正の積み重ねではなく、国民に説明できる一つの体系として示すことです。
それが、私の考える「日本版ルール主義」です。

おわりに――「厳格化」の次に必要なのは「体系化」である

今回、高市首相がSNSで説明した外国人政策の「厳格化」は、個々の制度の問題に対応するという意味では、一つの政策の方向性を示しています。
しかし、外国人政策は、個別の在留資格の審査だけで完結するものではありません。
 受入れの目的
 受入れ可能な規模
 在留資格ごとの対象と条件
 在留期間と更新
 日本語や生活、制度・ルールの学習
 地域社会への秩序ある参加
 長期在留
 永住
 帰化
そして、ルール違反への対応。
これらはすべて、つながっています。
だからこそ私は、
「外国人政策をもっと厳しくせよ」
と言いたいのではありません。
そうではなく、
「個別の厳格化を、一貫した国家政策へと体系化してほしい」
と考えています。
日本版ルール主義とは、外国人を排除するためのルールではありません。
日本人のための日本でありながら、外国人にとっても、ルールが明確で、公平で、安心して暮らすことのできる日本をつくる。
そのために、権利と責務を明確にし、受入れの「質・量・期間」を考え、社会統合の能力を踏まえて受入れを設計し、長期在留・永住・帰化までを一つの政策体系として考える。

そのような外国人政策こそ、これからの日本には必要なのではないでしょうか。
「厳格化」の次に必要なのは、「体系化」です。
そして、今まさに政府が「外国人の受入れの基本的な在り方」を検討しているのであれば、これは単なる制度の微調整ではなく、日本の外国人政策そのものを、どのような原則に基づいて組み立てるのかを考える機会にしてほしいと、私は思います。

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