なぜ今、あらためて日本の外国人受入れ政策を論じるのか【第13部】制度設計の出発点④――社会が変われば、制度も問い直される

一旦制度は出来上がっても、社会は止まらない

前回、第12部では、平成元年入管法改正がどのような政策目的のもとで行われたのかを見てきました。
政府は、
「国際協調・国際交流の増進」

「我が国社会の健全な発展に有益となる外国人の適正な受入れ」
という考え方のもとで制度を見直しました。
当時としては、その政策目的と制度設計には一定の整合性がありました。
こうして制度は一旦出来上がります。
しかし、それで終わりではありません。

制度は社会の中で運用されます。
そして、その社会は止まることなく変化し続けます。
制度が変わらなくても、社会が変われば、制度に求められる役割も変わっていくのです。

社会の変化は、新たな課題を生み出す

平成元年改正の後、日本社会は大きく変わりました。
バブル経済は崩壊しました。
少子高齢化が進みました。
労働力人口は減少を続けました。
経済のグローバル化も進みました。
企業が求める人材も変化しました。
それに伴い、日本で生活する外国人の数だけでなく、日本での生活(日本滞在)が長期化する人も増えていきました。
外国人の子どもが日本の学校で学ぶ場面も増えました。
地域社会の中で外国人住民として暮らす人々も増えていきました。
すると、制度が作られた当時には十分には想定されていなかった課題も、少しずつ表面化していったのです。

制度が悪かったのではない

ここで誤解してほしくないことがあります。
こうした課題が現れたからといって、
平成元年改正が失敗だった、
ということにはなりません。
制度は、
その時代の社会を前提として設計されます。
社会が変われば、
制度に求められる役割も変わります。
したがって、
制度設計に求められるのは、
一度作った制度を守り続けることではなく、社会の変化に応じて制度を問い直し、必要な見直しを続けることなのです。

本当に重要なのは「制度を運営する能力」である

ここで、私は一つ強調しておきたいことがあります。
制度設計とは、
法律を作ることだけではありません。
制度を適切に運営し、
社会の変化を把握し、
必要に応じて制度を見直していく。
その一連の営みまで含めて、
初めて制度設計だと私は考えています。
つまり、
制度には、
「作る能力」
だけではなく、
「運営する能力」
そして、
「見直す能力」
も必要なのです。

「制度を運営する能力」には社会統合政策も含まれる

ここでいう「制度を運営する能力」は、出入国や在留を適正に管理する能力だけを意味するものではありません。
外国人が短期間滞在するだけであれば、行政に求められる役割は比較的限定されます。
しかし、日本での生活(日本滞在)が長期化すれば、
教育、
医療、
雇用、
地域社会との関係など、
入国管理だけでは対応できない課題が生じます。
したがって、
制度を運営する能力には、
出入国・在留管理能力だけでなく、
外国人が地域社会の中で円滑に生活し、日本社会の一員として安心して暮らせるよう支える社会統合政策の能力も含まれます。
外国人受入れ政策は、
入国管理だけで完結する政策ではありません。
入国から在留、
そして地域社会での生活までを視野に入れて初めて、
制度全体が適切に機能するのです。

制度は「学習する制度」でなければならない

私は、このシリーズの中で繰り返し述べてきました。
制度は、
社会の変化に対応できなければなりません。
外国人受入れ政策は、
人の人生に関わる政策です。
そして、
一度始まった人の国境を越えた移動や定住は、
簡単に元へ戻せるものではありません。
だからこそ、
制度は、
運用結果を検証し、
課題を把握し、
必要な修正を加え続ける、
「学習する制度」
でなければならないのです。

「受け入れるか、受け入れないか」では見えてこない

ここまで見てきたように、
外国人受入れ政策の課題は、
単純に
「受け入れるか」
「受け入れないか」
という二者択一では整理できません。
本当に問われるべきなのは、
社会が変化したとき、
制度も適切に見直されてきたのか。
そのための行政能力や政策評価の仕組みは十分だったのか。
さらに、
外国人を受け入れた後の社会統合政策を含め、
制度全体を支える能力は十分だったのか。
ということです。
この視点を持たなければ、
外国人政策の議論は、
いつまでも賛成・反対の応酬に終始してしまいます。

次回予告

制度は、
法律の条文どおりに動くとは限りません。
社会の中で運用されることで、
制度を設計した当初には十分想定されていなかった結果が生じることもあります。
次回からは、その具体例を通して、
日本の外国人受入れ政策を制度設計という視点から検証していきたいと思います。

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