データで読み解く 日本の夏②夏はなぜこんなに暑くなったのか?――「暑さ」の原因を一つに決めつけないために

新常識

「データで読み解く 日本の夏」は、近年の夏の暑さや気候変動について、観測データや研究成果をもとに、できるだけ中立的・科学的な視点から分かりやすく解説するシリーズです。印象や思い込みではなく、データから見えてくる日本の夏の姿を、一緒に考えていきます。

はじめに

前回は、「昔の夏は本当に今ほど暑くなかったのか?」をテーマに、観測データをもとに、日本の夏が長期的に暑くなってきたことを見てきました。
では、なぜ日本の夏はここまで暑くなったのでしょうか。
テレビやインターネットでは、「地球温暖化が原因です」と説明されることがあります。一方で、「昔から暑い夏はあった」と言う人もいます。
さて、どちらが正しいのでしょうか。
結論から言えば、どちらにも一理あります。
ただし、それだけでは十分な説明にはなりません。
実際の夏の暑さは、一つの原因だけで決まるものではなく、さまざまな要因が重なり合って生まれているからです。

地球温暖化という「土台」

まず、長期的な背景として最も重要なのが地球温暖化です。
世界の平均気温は19世紀後半と比べて約1℃以上上昇しており、日本でも気象庁の観測によって長期的な気温上昇が確認されています。
たとえるなら、陸上競技でスタートラインそのものが少し前へ移動したようなものです。
以前なら33℃程度だった条件でも、同じような天気になれば34℃や35℃に達しやすくなります。
つまり、地球温暖化は、日本の夏全体の気温の「土台」を押し上げていると考えられています。

その年の暑さを左右する気圧配置

しかし、地球温暖化だけで毎年の暑さを説明することはできません。
同じ日本でも、猛暑になる年もあれば、比較的過ごしやすい夏になる年もあります。
その違いを生み出す大きな要因の一つが、気圧配置です。
夏になると、太平洋高気圧やチベット高気圧が日本列島を覆うことがあります。
高気圧に覆われると雲ができにくくなり、強い日差しが地面を暖めます。
さらに、高気圧では上空から空気が下降しながら圧縮されるため、気温はさらに上がります。
天気予報で「高気圧に覆われるため厳しい暑さになります」と言われるのは、このためです。

偏西風の流れが暑さを左右することもある

気圧配置に大きく影響するものとして、偏西風があります。
偏西風は、日本の上空を西から東へ吹く強い風です。この流れが大きく蛇行すると、高気圧や低気圧が同じ場所にとどまりやすくなることがあります。
例えば、太平洋高気圧が日本付近に長く居座れば、晴れて暑い日が続きやすくなります。逆に、梅雨前線が停滞すれば、大雨が続くこともあります。
近年の猛暑でも、偏西風の蛇行が高気圧の停滞に関係したと考えられる事例が報告されています。
ただし、偏西風がなぜ大きく蛇行するのか、その仕組みや、地球温暖化との関係については、現在も研究が続けられているテーマです。
つまり、「偏西風が猛暑に影響すること」は広く認められていますが、「その偏西風の変化が地球温暖化によるものかどうか」は、まだ結論が出ていない部分もあります。
科学では、「分かっていること」と「まだ分かっていないこと」を区別して考えることが大切です。

都市部ではヒートアイランド現象も無視できない

都市部では、もう一つ重要な要因があります。
ヒートアイランド現象です。
アスファルトやコンクリートは日中に大量の熱を蓄えます。
さらに建物や自動車、エアコンの室外機などからも熱が放出されます。
そのため、都市では夜になっても気温が下がりにくくなります。
近年、都市部で熱帯夜が増えている背景には、この影響もあると考えられています。
つまり、都市部で感じる暑さは、地球温暖化だけではなく、都市そのものの環境によっても強められているのです。

地形が猛暑を生み出すこともある

さらに、日本の地形も暑さに影響します。
例えば、日本海側から山を越えて吹き下ろす風は、乾いた暖かい風となって平野部へ流れ込みます。
これが「フェーン現象」です。
フェーン現象が起こると、局地的に40℃近い気温になることもあります。
つまり、その土地の地形や風向きによっても、猛暑の程度は大きく変わるのです。

気象学の世界では「全部○○のせい」は科学ではない

ここまで見てきたように、日本の夏の暑さには、
・地球温暖化という長期的な背景
・その年の気圧配置
・偏西風の流れ
・都市化によるヒートアイランド現象
・地形や風によるフェーン現象
など、さまざまな要因が重なっています。
だからこそ、
「全部、地球温暖化のせいだ」
と言い切ることも、
「昔から暑い年はあった」
だけで説明を終えることも、科学的には十分とは言えません。
現実の気象は、一つの原因ではなく、さまざまな要因が重なり合って生まれる現象なのです。

おわりに

私たちは、「暑い」と感じると、つい一つの原因を探したくなります。
しかし、気象学の世界では、「一つの原因ですべてを説明できる現象」はほとんどありません。
日本の夏も同じです。
地球温暖化という長期的な変化の上に、その年の気圧配置や偏西風の流れ、都市化、地形などが重なり、私たちが体感する「今日の暑さ」が生まれています。
次回はいよいよ最終回です。
最新の観測データや研究成果をもとに、「これから日本の夏はどうなるのか」を一緒に考えてみたいと思います。
未来を予測することは簡単ではありません。しかし、観測データは、日本の夏がこれからどのように変わっていく可能性があるのかについて、さまざまなヒントを与えてくれています。

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