SNSで広がる「入管庁は及び腰」という誤解――不法就労助長罪の摘発は誰の仕事なのか

SNSでは、ときどき次のような投稿を見かけます。
「不法就労外国人を工場等に大量に派遣している大手の派遣会社はまだ無傷。出入国在留管理庁は、知らぬ存ぜぬを決め込む気なのでしょうか。」
このような投稿は、一見するともっともらしく聞こえます。

しかし、この種の主張を読むときには、一つ確認しなければならないことがあります。
その行為は、本当に出入国在留管理庁(略称「入管庁」)の権限なのでしょうか。
ここは、一般にはあまり知られていません。
例えば、不法就労助長罪は出入国管理及び難民認定法(略称「入管法」)に規定されています。
そのため、「入管法の犯罪だから、入管庁が派遣会社を逮捕すればいい」と考える人も少なくありません。
しかし、それは法制度の仕組みとは異なります。
入管庁は行政機関です。犯罪の捜査機関ではありません。
行政機関として、退去強制事由に該当する外国人を摘発・収容し、行政手続である退去強制手続を進める権限はあります。
一方で、事業主や派遣会社の関係者を犯罪の被疑者として逮捕し、不法就労助長罪として刑事責任を追及するのは、刑事司法の手続であり、警察・検察の役割です。
これは、不法入国でも同じです。
不法入国した外国人を、その身柄を確保して退去強制
(強制送還)という行政処分をするのは入管ですが、不法入国罪という犯罪について捜査し、刑事責任を追及するのは警察です。
同じ法律に規定されている事項でも、行政処分と刑事処分では担当機関が異なるのです。

したがって、
「大手派遣会社を摘発しないのは、入管庁が見て見ぬふりをしているからだ」
という批判は、少なくとも法制度の仕組みを踏まえた評価とは言えません。
実際には、
「どの事件を立件するか」
「逮捕に足りる証拠があるか」
「不法就労助長罪の故意を立証できるか」
といった判断は、警察・検察が刑事手続の中で行うものです。

もちろん、だからといって入管庁が無関係というわけではありません。
不法就労対策は、警察、入管庁、厚生労働省(労働局)などが連携して取り組むべき課題であり、実際に国もその方針を示しています。
しかし、それぞれの行政機関には、それぞれ異なる権限があります。
その違いを理解しないまま、「○○しないのは入管庁の怠慢だ」と断定してしまうことは、公正な議論とは言えないでしょう。

SNSでは、分かりやすい断定が歓迎される一方で、制度の仕組みや権限の違いは見落とされがちです。
しかし、行政機関を正当に評価し、あるいは正当に批判するためには、「誰に、どのような権限と責任が与えられているのか」という基本的な理解が欠かせません。
制度を正しく理解した上で議論することこそ、建設的な政策論への第一歩ではないでしょうか。

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