なぜ今、あらためて日本の外国人受入れ政策を論じるのか【第26部】社会統合質的適合原則──誰を受け入れるかによって必要な社会統合能力は異なる

はじめに

前回、第25部では、日本版ルール主義の第一原則として「社会統合先行原則」を提案しました。
外国人受入れの規模・構成・速度は、受入れ側社会が実効性ある社会統合政策を提供できる能力を超えてはならない。
これが、その基本的な考え方です。
しかし、ここで一つ重要な問題があります。
社会統合能力は、本当に「人数」だけで決まるのでしょうか。
私は、そうではないと考えています。
同じ一万人を受け入れる場合でも、受け入れる外国人集団の特性が異なれば、必要となる行政資源も、社会統合政策の内容も、大きく変わります。
今回は、この視点を制度設計上の第二原則として整理し、社会統合質的適合原則について考えてみたいと思います。

「人数」だけでは社会統合能力は測れない

外国人受入れ政策では、例えば、
「年間○万人受け入れる」
というような数字だけが注目されることが少なくありません。
しかし、制度設計の立場から見ると、この数字だけでは政策の適否を判断することはできません。
例えば、
・高度な専門職として来日する外国人
・一定の技能を持つ特定技能外国人
・家族を帯同する外国人
・単身で来日する外国人
これらは、いずれも必要となる行政対応が異なります。
さらに、
・日本語能力
・文化的背景
・年齢構成
・家族構成
・就労形態
・居住地域
などが変われば、社会統合政策に必要となる行政資源も変わります。
つまり、
同じ一万人であっても、どのような外国人集団を受け入れるのかによって、日本社会に求められる社会統合能力は大きく異なるのです。

「質」を論じるとは、個々人を評価することではない

こで、一つ誤解してはならないことがあります。
「質」という言葉を用いると、
外国人一人一人の能力や価値を評価し、優劣を論じているかのように受け取られることがあります。
しかし、私がここでいう「質」とは、そのような意味ではありません。
ここでいう「質」とは、人間としての優劣ではなく、制度設計上考慮すべき外国人集団の属性・構成・活動内容を意味します。
制度設計の対象となるのは、個々の外国人ではなく、
受け入れる外国人集団の特性
です。
例えば、
・専門的・技術的分野で就労する外国人なのか
・家族帯同が想定される外国人なのか
・一定の日本語能力を有する外国人なのか
・地域社会への定着可能性が高い外国人なのか
こうした違いによって、必要となる社会統合政策は大きく変わります。
したがって、ここで論じている「質」とは、
制度設計上考慮すべき受入れ対象の特性
を意味する概念なのです。

制度は受入れ対象との「適合」で設計されなければならない

本来、制度設計とは、
受入れ対象の特性に応じて行われるものです。
教育制度が、
幼児教育と大学教育で異なるように、
医療制度が、
小児医療と高齢者医療で異なるように、
外国人受入れ制度も、
受け入れる外国人集団の特性に応じて設計されなければなりません。
にもかかわらず、
外国人受入れ政策だけが、
人数だけを基準として議論されるならば、
制度設計として極めて不十分です。
社会統合能力とは、
単なる人数処理能力ではなく、
受け入れる外国人集団の特性に応じた社会統合政策を提供できる能力
だからです。
その意味で、
制度設計に求められるのは、
人数だけではなく、
受入れ対象と制度との「適合」
なのです。

社会統合質的適合原則が意味するもの

ここまで述べてきた考え方を、私は日本版ルール主義の第二原則として、
社会統合質的適合原則
と呼びたいと思います。
その内容は、次の一文に集約されます。
外国人受入れ制度は、受け入れる外国人集団の特性と、日本社会が提供できる社会統合能力とが適切に対応するよう設計されなければならない。
この原則は、
外国人受入れを制限するための考え方ではありません。
また、
外国人受入れを積極的に推進するための考え方でもありません。
外国人受入れ制度を、
持続可能な公共政策として成立させるための制度設計原則なのです。
制度は、
受入れ対象に応じた制度でなければなりません。
そして、その制度を支える社会統合能力との間に適切な対応関係が保たれていなければなりません。
それが、この第二原則の本質です。

社会統合能力は「政策資源」である

もっとも、
社会統合能力は固定されたものではありません。
日本語教育を充実させる。
相談体制を整える。
自治体の多言語対応を強化する。
企業への支援体制を整備する。
地域社会との連携を深める。
こうした取組によって、
社会統合能力そのものは高めることができます。
つまり、社会統合能力とは、
道路や港湾、
学校や病院、
上下水道などと同様に、
国家が計画的に整備・維持・拡充すべき公共インフラであり、政策資源
なのです。
だからこそ、
外国人受入れ政策も、
社会統合能力の拡充に合わせて、
段階的に見直されるべきだということになります。

「理想論ではないか」という疑問に対して

ここで、
「社会統合政策を重視するのは理想論ではないか。」
という意見があるかもしれません。
実際、
主要な欧米諸国では、
移民政策や社会統合政策を巡る様々な課題が現在も続いています。
しかし、
私がそこから読み取るべき教訓は、
「社会統合政策は意味がない」
ということではありません。
むしろ、
受入れ規模や受入れ速度が、受入れ側社会の社会統合能力を上回れば、社会的摩擦や制度疲労が生じ得る
ということです。
各国の経験は、そのことを示しています。
だからこそ、
日本では同じ轍を踏まないよう、
最初から社会統合能力を制度設計の前提条件として位置付ける必要があります。
これが、
私のいう社会統合先行原則であり、
さらに、
受け入れる外国人集団の特性まで考慮して制度全体を設計しようとする考え方が、
社会統合質的適合原則
なのです。

「どのような外国人集団を受け入れるか」という制度設計

したがって、
外国人受入れ政策の適正規模とは、
単純な人数ではありません。
受け入れる外国人集団の特性と、
日本社会が現実に提供できる社会統合能力、
この二つを組み合わせて初めて決まる
ものです。

同じ人数であっても、
必要となる社会統合政策は一様ではありません。
だからこそ、
制度設計では、
「何人受け入れるか」
だけではなく、
「どのような外国人集団を受け入れるのか」
という視点が不可欠
なのです。
そして、
その内容に応じて、
必要な社会統合能力を整備し、
その能力を超えない範囲で制度を運用する。
必要があれば、
まず社会統合能力そのものを高め、
その後に受入れ制度を見直す。
この順序を守ることこそ、
社会統合質的適合原則が制度設計に求める基本姿勢です。

おわりに

外国人受入れ政策では、
「何人受け入れるか」
という「量」の議論が先行しがちです。
しかし、
制度設計の観点から本当に重要なのは、
「どのような外国人集団を受け入れるのか」
という「受け入れる外国人集団の質」の問題です。

そして、その「質」は、
外国人個人の優劣を意味するものではなく、
制度設計上考慮すべき外国人集団の属性・構成・活動内容を意味します。
社会統合質的適合原則とは、
「誰を受け入れるか」という問いに対する、日本版ルール主義の答え
なのです。

次回は、
この第一原則(社会統合先行原則)、第二原則(社会統合質的適合原則)を、実際の制度運営へ落とし込む第三原則として、
「漸進主義──制度は段階的に発展させなければならない」
について考えてみたいと思います。

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