なぜ今、あらためて日本の外国人受入れ政策を論じるのか【政策提言の入口】日本版ルール主義とは何か──外国人受入れ政策を考えるための総論

はじめに

本シリーズでは、これまで26回にわたり、日本の外国人受入れ政策について、その歴史的経緯、制度の変遷、そして現在抱えている課題について検証してきました。
日本の外国人受入れ政策は、決して一つの時点で完成したものではありません。
戦後の出入国管理制度の形成、高度人材を中心とした外国人の受入れ、日系人の受入れ、技能実習制度の創設と見直し、特定技能制度の創設、そして育成就労制度への転換。
これらは、それぞれ異なる時代背景と政策課題の中で形成されてきた制度です。
しかし、これまでの制度変遷を振り返ると、一つの重要な課題が浮かび上がります。
それは、
外国人受入れ制度は、単に外国人を受け入れる仕組みだけでは成立しない。
ということです。
外国人を受け入れるということは、同時に、
・在留管理
・労働環境の確保
・日本語教育
・生活支援
・地域社会との関係形成
・子どもの教育
・社会保障制度との調整
など、多くの政策課題を伴います。
だからこそ、外国人受入れ政策は、単なる労働政策でも、単なる経済政策でもありません。
国家の制度能力そのものが問われる公共政策なのです。

本稿では、これまでのシリーズ全体を踏まえた上で、私が提案する
「日本版ルール主義」
とは何かについて、その基本的な考え方を整理します。

日本の外国人受入れ政策はどのように形成されてきたか―【第1部】~【第22部】への案内

日本の外国人受入れ政策を理解するためには、現在だけを見るのではなく、制度がどのような考え方のもとで形成されてきたのかを振り返る必要があります。
シリーズ前半では、日本の出入国在留管理行政の歴史をたどりながら、外国人受入れ制度の形成過程を検証しました。
そこでは、日本政府が長年、
「専門的・技術的分野の外国人については積極的に受け入れる」
一方で、
「非専門的・非技術的分野の外国人受入れについては慎重に対応する」
という基本姿勢を維持してきたことを確認しました。
しかし、その後、日本社会では少子高齢化や人口減少による人手不足が深刻化します。
その結果、外国人労働者受入れ制度も大きく変化しました。
【第1部】から【第22部】では、主に以下の流れを扱いました。
【第1部】~【第19部】日本の外国人受入れ政策の歴史的形成
日本の出入国管理制度がどのように形成され、高度人材を中心とする受入れ政策が展開されてきたのかを検証しました。
【第20部】技能実習法の創設
技能実習制度について、制度目的と実態の乖離、外国人保護の必要性などを踏まえ、平成28年制定の技能実習法によって監理体制が法律上整備された経緯を整理しました。
【第21部】特定技能制度の創設
特定技能制度は、深刻化する人手不足への対応として、
「一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材を受け入れる」
ために創設された制度です。
ここで重要なのは、特定技能制度が、外国人受入れ政策において初めて明確に、
「人材確保」
を政策目的として掲げた制度であったことです。
【第22部】育成就労制度の創設
技能実習制度は発展的に解消され、育成就労制度へ移行することとなりました。
育成就労制度では、
「国際協力」
を中心とした技能実習制度から、
「人材育成と人材確保」
を目的とする制度へと政策目的が転換されました。
この転換は、日本の外国人受入れ政策が新たな段階へ移行したことを意味します。

日本版ルール主義とは何か-【第23部】への案内

【第23部】では、シリーズ全体の基本理念として、
日本版ルール主義
という制度設計思想を提示しました。
日本版ルール主義とは、
外国人受入れについて、感情的な賛否や人数目標から出発するのではなく、国家として管理・運営可能な制度を構築するという考え方です。
その基本的な考え方は、次の点にあります。
第一に、未来の産業構造や技術革新の方向性を、誰も完全かつ正確に予測することはできません。
もちろん、政策立案において将来予測や需要分析は不可欠です。
しかし、どれほど綿密な分析を行ったとしても、社会経済情勢の変化や技術革新によって、当初の想定が変化する可能性は避けられません。
だからこそ、外国人受入れ制度は、一度決定した政策を固定化するのではなく、実施状況を検証し、その結果を踏まえて必要な修正を行うことのできる「学習する制度」として設計されなければならないのです。

第二に、
人の国境を越えた移動は、モノやカネの移動とは異なり、高い不可逆性を持つ。
一度形成された人的関係や地域社会との結び付きは、簡単には元に戻すことができません。
だからこそ、外国人受入れ政策には慎重な制度設計が必要になります。
日本版ルール主義とは、この二つの現実を前提とした制度設計思想です。

第一原則:社会統合先行原則―【第24部】・【第25部】への案内

日本版ルール主義の第一原則として提示したのが、
社会統合先行原則
です。
ここで、あらかじめ確認しておきたいことがあります。
社会統合政策を重視することは、日本が米国などのように、入国の段階から永住を前提として外国人を受け入れる「移民国家型」の制度へ転換すべきだという意味ではありません。
日本は、入国時点から永住を前提として外国人を受け入れる制度を採用している国ではありません。
しかし一方で、日本には永住許可制度や帰化許可制度が存在します。また、多くの在留資格についても、適法な在留を継続し、一定の要件を満たした場合には、結果として永住や帰化へ至る道が制度上開かれています。
言い換えれば、日本の外国人受入れ制度は、
「最初から移民として受け入れる制度」
ではありません。
しかし、適法な在留の継続を通じて、結果として定住や地域社会との長期的な関係形成が生じ得る制度でもあります。

だからこそ、社会統合政策は「外国人が定住した後に考える政策」ではありません。
将来、定住や地域社会との関係形成が生じる可能性まで見据え、制度設計の段階から組み込むべき社会インフラなのです。
外国人受入れ政策において、単に人数だけを議論することは適切ではありません。
重要なのは、
・どのような外国人集団を受け入れるのか
・日本社会には、それを支える社会統合能力があるのか
という点です。
その意味で、
受入れ規模・構成・速度は、社会統合能力を超えてはならない。
これが社会統合先行原則の核心です。

第二原則:社会統合質的適合原則―【第26部】への案内

【第26部】では、日本版ルール主義の第二原則として、
社会統合質的適合原則
を提示しました。
これは、
「外国人を受け入れるか否か」
という問題ではありません。
問題は、
どのような外国人集団を、どのような制度によって受け入れるのか
ということです。
同じ人数の外国人を受け入れる場合でも、
・日本語能力
・就労分野
・家族帯同の有無
・地域的集中
・将来の定住可能性
によって、必要となる社会統合能力は大きく異なります。
したがって、外国人受入れ政策の適正規模は、
単純な人数ではなく、
受け入れる外国人集団の特性と社会統合能力の組み合わせ
によって決まります。

これが社会統合質的適合原則の基本的考え方です。

今後提示する制度設計原則―【第27部】以降への橋渡し

ここまで、
 日本版ルール主義
 社会統合先行原則
 社会統合質的適合原則
という基本理念を提示してきました。
しかし、制度設計思想は理念だけでは十分ではありません。
今後の【第27部】以降では、さらに具体的な制度設計原則について検討していきます。
例えば、
 漸進主義
 検証可能性
 政策評価制度
 在留管理能力の強化
 受入れ分野ごとの管理
 地域社会との調整制度
などです。
重要なのは、外国人受入れ政策を一度決めたら固定するのではなく、
社会状況の変化を踏まえて学習し、修正できる制度として構築することです。
それこそが、日本版ルール主義が目指す制度設計です。

おわりに-外国人受入れ政策に必要なのは「賛成か反対か」ではなく「持続可能な制度設計」であ

外国人受入れ政策をめぐる議論では、
「外国人を受け入れるべきか」
「受け入れるべきではないか」
という二者択一の議論になりがちです。
しかし、本当に問われるべき問題は、それだけではありません。
重要なのは、
どのような制度設計で、どの程度の規模で、どのような外国人材を受け入れるのか。
ということです。
外国人受入れ政策は、経済政策であると同時に、社会政策であり、国家の制度能力が問われる公共政策です。
だからこそ必要なのは、
感情的な賛否ではなく、
現実を踏まえた制度設計です。
本シリーズで提示してきた
日本版ルール主義
とは、
外国人受入れを無条件に推進する考え方でも、全面的に否定する考え方でもありません。
外国人受入れという政策手段を、日本社会が持続可能な形で運用するための制度設計思想です。
その具体的な制度設計について、今後さらに検討していきたいと思います。

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