なぜ今、あらためて日本の外国人受入れ政策を論じるのか【第25部】社会統合先行原則──受入れ規模は社会統合能力を超えてはならない

はじめに

前回、第24部では、
社会統合政策は外国人受入れ政策を支える「社会インフラ」である
という考え方を提示しました。
外国人受入れ制度は、日本語教育、生活支援、行政相談、地域社会との橋渡しなど、社会統合政策という基盤の上に初めて成り立つ制度です。
では、その考え方を制度設計へ落とし込むと、どのような原則が導かれるのでしょうか。
私は、その答えが「社会統合先行原則」であると考えています。

社会統合能力を超える制度は設計してはならない

外国人受入れ政策では、
「もっと外国人を受け入れるべきだ」
あるいは、
「外国人受入れを抑制すべきだ」
という議論が繰り返されます。
しかし、私は、そのどちらから議論を始めるべきではないと思います。
まず問われるべきなのは、
日本社会には、どこまで外国人を受け入れ、社会統合を支える能力があるのか
ということです。
制度設計とは、本来、
制度を運営する能力を前提として行われなければならない
からです。

国家にも制度能力の限界がある

行政には万能の能力があるわけではありません。
例えば、
・日本語教育を提供できる人材
・生活相談員
・多言語対応できる行政窓口
・学校現場
・地域社会との調整役
これらには、すべて人的・財政的な限界があります。
行政資源が有限である以上、
社会統合政策にも実施能力の限界があります。

つまり、
社会統合能力にも上限がある
ということです。

制度設計は「能力」を超えてはならない

私は、
制度設計の基本原則として、
次のことを提案したいと思います。
外国人受入れの規模・構成・速度は、受入れ側社会が実効性ある社会統合政策を提供できる能力を超えてはならない。
これが、私のいう「社会統合先行原則」です。
これは、
外国人受入れに反対だからではありません。
逆です。
受け入れるのであれば、
受け入れた外国人も、
受け入れる日本社会も、
双方が安心して生活できる制度でなければならないからです。

社会統合能力は拡充することができる

もっとも、
社会統合能力は固定されたものではありません。
行政体制を整備し、
日本語教育を充実させ、
自治体や企業との連携を深めれば、
社会統合能力そのものを高めることは可能です。
つまり、
受入れ能力は、
努力によって拡充できる政策資源
でもある
のです。
したがって、
社会統合先行原則は、
外国人受入れを固定的に抑制する考え方ではありません。
社会統合能力を一歩ずつ高めながら、
その能力に応じて外国人受入れ政策も一歩ずつ発展させていく。
そうした漸進的な制度設計を求める原則
なのです。

社会統合先行原則が意味するもの

ここまで述べてきた「社会統合先行原則」は、外国人受入れ政策を制限するための考え方ではありません。
また、外国人受入れを積極的に推進するための考え方でもありません。

外国人受入れ政策を、持続可能な公共政策として成立させるための制度設計原則です。
制度は、運営できる能力を前提として設計されなければなりません。
行政能力を超える制度は、やがて制度疲労を起こします。
外国人受入れ制度も、その例外ではありません。

社会統合能力は「政策資源」である

もっとも、社会統合能力は固定されたものではありません。
日本語教育を充実させる。
相談体制を整える。
自治体の多言語対応を強化する。
企業への支援体制を整備する。
こうした取組によって、
社会統合能力そのものは高めることができます。
つまり、社会統合能力とは、
道路や港湾、学校や病院と同様に、社会統合能力も国家が計画的に整備・維持・拡充していくべき公共インフラなのです。
だからこそ、
外国人受入れ政策も、
社会統合能力の拡充に合わせて、
段階的に見直されるべきだ
ということになります。

「理想論ではないか」という疑問に対して

ここで、
「社会統合政策を重視するのは理想論ではないか。」
という意見があるかもしれません。
実際、主要な欧米諸国では、
移民政策や社会統合政策を巡る様々な課題が現在も続いています。
しかし、私がそこから読み取るべき教訓は、
「社会統合政策は意味がない」
ということではありません。
むしろ、
受入れ規模や受入れ速度が、受入れ側社会の統合能力を上回れば、様々な問題が生じ得る
ということです。
少なくとも私は、各国の経験はそのことを示しているように思います。
だからこそ、
日本では同じ轍を踏まないよう
最初から社会統合能力を制度設計の前提条件として位置付ける必要があります。
これが、
私のいう社会統合先行原則です。

社会統合能力を基準として制度を設計する

したがって、
外国人受入れ政策の適正規模とは、
単純な人数ではありません。
受け入れる外国人集団の特性と、
日本社会が現実に提供できる社会統合能力、
この二つを組み合わせて初めて決まる
ものです。
そして、その能力を超えない範囲で制度を運用する。
必要があれば、
まず社会統合能力そのものを高め、
その後に制度を見直す。

この順序を守ることこそ、
社会統合先行原則の本質なのです。

おわりに

外国人受入れ政策は、
「受け入れるか、受け入れないか」
という単純な二者択一ではありません。
本当に問われるべきなのは、
どのような制度設計で受け入れるのか
ということです。
私は、
その出発点となる制度設計原則が、
社会統合先行原則
であると考えています。
そして、この原則をさらに具体化していくと、
次に問われるのは、
「社会統合能力」とは何によって決まるのか、
という問題
です。
受け入れる外国人の人数だけではありません。
受け入れる外国人集団の特性によって、必要となる行政資源や支援体制は大きく異なります。
社会統合先行原則とは、外国人受入れ政策の前提条件を定める、日本版ルール主義の第一原則です。
しかし、社会統合能力は「量」だけで決まるものではありません。受け入れる外国人集団の特性によって、必要となる行政資源や支援体制は大きく異なります。
次回は、この視点から、日本版ルール主義の第二原則である「社会統合質的適合原則」について考えてみたいと思います。

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