なぜ今、あらためて日本の外国人受入れ政策を論じるのか【第29部】「外国人に選ばれる国」を目指すのではなく、「日本社会が選択した制度に納得する外国人」に選ばれる国へ(前編)

はじめに

これまで第23部から第28部にかけて、私が提案する「日本版ルール主義」の制度設計思想と、その基本原則について述べてきました。
未来の産業構造や技術革新を、誰も正確に予測することはできません。
だからこそ、外国人受入れ政策も、将来を完全に見通したうえで一度決めれば終わりという制度ではなく、検証し、学習し、必要に応じて修正できる制度として設計する必要があります。
そのうえで、私は、
・社会統合先行原則
・社会統合質的適合原則
・漸進主義
・検証可能性
という基本原則
を提示してきました。
しかし、ここまで制度設計について考えてくると、もう一つ、避けて通れない問題があることに気づきます。
それは、
「外国人に選ばれる国」を、日本の外国人政策の上位の政策目標に置くべきなのか。
という問題です。
私は、この問いに対しては、慎重であるべきだと考えています。
外国人から選ばれることそのものが悪いわけではありません。
しかし、日本の外国人政策は、外国人から選ばれるために存在する政策ではありません。
まず日本社会自身が、
「どのような外国人を、どの程度受け入れ、どのような条件の下で日本社会に長期的に定着してもらうのか」
を責任を持って決める。

そのうえで、
「この制度なら、日本で生活したい」
と考える外国人に選んでもらう。

私は、この順序が重要なのだと思います。

「外国人から選ばれる国」を目指すことが、なぜ問題になるのか

近年の外国人政策をめぐる議論では、
「日本は外国人から選ばれる国にならなければならない」
という趣旨の主張を目にすることがあります。
もちろん、日本が外国人にとって魅力的な国であることには意味があります。
優秀な人材に来てもらいたい。
日本で働きたいと思う人に来てもらいたい。
日本で安心して暮らしたいと思う人に来てもらいたい。
こうした政策目標には、それぞれ合理的な理由があります。
しかし、
「外国人から選ばれること」そのものを、日本の外国人政策における最上位の目標に置くこと
となれば、話は別です。
日本が、
・どの程度の外国人を受け入れるのか
・どのような外国人を受け入れるのか
・どのような在留資格を設けるのか
・どこまで長期的な在留を認めるのか
・どのような条件で永住を認めるのか
という問題は、外国人側の希望だけによって決められるものではありません。
これは、日本国民自身が、どのような社会を将来つくっていくのかという問題でもあるからです。
したがって、
「外国人から選ばれる国にならなければならない」
という命題を政策の出発点に置くのであれば、
まず、
「なぜ日本は、そのような国を目指さなければならないのか」
ということを説明する必要があります。

その説明なしに、外国人の希望や定着意欲を理由として日本の制度を変更していくのであれば、政策の目的と手段が逆転してしまうおそれがあります。

日本は「外国人に選ばれるための国」ではない

外国人政策を考えるうえで、私はここを明確にしておきたいと思います。
日本は、外国人に選ばれるために存在している国ではありません。
日本社会には、日本社会自身の利益があります。
日本国民の意思があります。
公共の秩序があります。
将来世代への責任があります。
そして、日本社会の一員として生活する外国人にも、守ってもらうべき法律や社会のルールがあります。

したがって、
「外国人にとって魅力的な制度なのか」
という視点だけで外国人政策を評価することはできません。
必要なのは、
「その制度が、日本社会にとって望ましい制度なのか」
という視点
です。
もちろん、外国人側の事情や希望を考慮することは必要です。
しかし、それは政策の目的そのものではなく、日本社会が責任を持って設計した制度を、実際に機能させるために必要な要素として考えるべきではないでしょうか。

「外国人に選ばれること」と「日本社会にとって望ましいこと」は同じではない

例えば、
「永住しやすい国」
であることが、外国人にとっては魅力的だとします。
しかし、それだけで日本社会にとって望ましい制度だとは限りません。
逆に、
「永住許可について一定の条件を設ける国」
であることが、外国人にとって直ちに魅力のない国を意味するわけでもありません。
日本語を学ぶ。
日本の法律や社会のルールを理解する。
税や社会保険料などの公的義務を適正に履行する。
安定した生活基盤を築く。
一定期間、日本で適正に生活する。
こうした条件を設けることは、外国人を排除するための政策とは限りません。
むしろ、
「日本社会の構成員として長期的に生活するのであれば、これだけのことは理解し、守ってください」
という、社会の側からの当然の要請
とも考えられます。
そして、その条件を満たした外国人には、明確で予見可能な永住への道を開く。
これは十分に合理的な制度設計ではないでしょうか。

日本は「移民国家」ではないが、定住が生じ得る制度を持っている

ここで、これまでの第24部・第25部で述べた社会統合政策との関係も整理しておきたいと思います。
日本は、米国などのように、入国の段階から永住を前提として外国人を受け入れる制度を採用している国ではありません。
しかし一方で、日本には永住許可制度や帰化許可制度が存在します。
また、多くの在留資格について、適法な在留を継続し、一定の要件を満たせば、結果として永住や帰化へ至る道が制度上開かれています。
言い換えれば、日本の外国人受入れ制度は、
「最初から移民として受け入れる制度」ではありませんが、制度の運用結果として定住が生じ得る制度
なのです。

だからこそ、日本の外国人政策では、
「外国人を一時的に受け入れる制度だから、定住や社会統合については考えなくてよい」
ということにはなりません。
同時に、
「定住する外国人が生じる可能性があるのだから、最初から移民として受け入れることを前提に制度を設計しなければならない」
ということでもありません。
必要なのは、その中間にある、より冷静な制度設計です。
すなわち、
将来、定住に至る可能性を制度設計の段階から織り込みながら、日本社会としてどのような外国人受入れを行うのかを、自らの責任で決めること
です。

「外国人に選ばれるために、日本社会がどこまで譲歩するのか」

ここでは、あえて少し極端な問いを立ててみたいと思います。
仮に、
「永住許可の条件が厳しいと、外国人に選ばれなくなる」
という理由で、永住許可の要件を緩和するとします。
では、どこまで緩和するのでしょうか。
さらに、
「日本語能力を求めると選ばれなくなる」
と言われたら、日本語能力に関する条件も緩和するのでしょうか。
「日本の法律や社会のルールについて一定の理解を求めると選ばれなくなる」
と言われたら、それも緩和するのでしょうか。
「税や社会保険料などの公的義務の履行を重視すると選ばれなくなる」
と言われたら、それも緩和するのでしょうか。
もちろん、無制限に認めるべきではありません。
なぜなら、そこで問われているのは、
「外国人に選ばれるために、日本社会がどこまで制度を変えるのか」
という問題だからです。
外国人政策は、外国人から選ばれるためだけに存在する政策ではありません。
日本社会の利益、日本国民の意思、社会の安定、公共の秩序、将来世代への責任などを総合的に考えて設計されるべきものです。

「選ばれること」と「選ぶこと」の順序を逆転させない

私は、ここに日本版ルール主義の重要な考え方があると思っています。
外国人受入れ政策を、
外国人に選ばれる
 ↓
外国人が日本に来る
 ↓
外国人が定着する
 ↓
だから制度を外国人にとってさらに魅力的にする
という順序で考えるのではありません。
そうではなく、
日本社会として制度を設計する
 ↓
その制度の内容を明確にする
 ↓
その制度に納得する外国人が日本を選ぶ
 ↓
その制度の下で適正に生活する
 ↓
日本社会の一員として長期的に生活することが適切と認められた者には、一定の条件の下で永住への道を開く
という順序です。
つまり、
「日本が外国人に選ばれる」のではなく、「日本社会が責任を持って設計した制度を、外国人が選ぶ
という発想
です。
もちろん、現実には外国人側にも選択権があります。
日本を選ばない自由もあります。
他国を選ぶ自由もあります。
それは当然です。
だからこそ、日本は外国人を無理に引き留めるのではなく、
日本社会として合理的だと考える制度を提示しその制度に納得する人に選んでもらう
という考え方を取るべき
なのです。

日本版ルール主義における「質」と「選択」

これは、第26部で述べた「社会統合質的適合原則」ともつながります。
ここでいう「質」とは、個々人の人間としての価値を評価することではありません。
どのような外国人集団を、どのような在留資格で、どのような条件の下で受け入れることが、日本社会にとって適切なのかという制度設計上の問題です。
例えば、
日本語能力。
技能・知識。
就労能力。
法令遵守への適合性。
生活基盤。
家族構成。
地域社会への影響。
こうした要素を総合的に考える必要があります。
そして、その制度を明確に示したうえで、
「この条件の下で日本で生活したい」
と考える外国人に来てもらう。
これは、
「外国人を選別して排除する」
という考え方ではありません。
むしろ、
日本社会と外国人の双方が、互いに制度と条件を理解したうえで選択する
という考え方
です。

(後編)へ続く

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