※本記事は、『なぜ今、あらためて日本の外国人受入れ政策を論じるのか【第29部】「外国人に選ばれる国」を目指すのではなく、「日本社会が選択した制度に納得する外国人」に選ばれる国へ(前編)』に続く(後編)であると同時に、シリーズ『なぜ今、あらためて日本の外国人受入れ政策を論じるのか』の最終回です。
「定着させる」と「永住させる」を切り離す
「日本が外国人に選ばれる」のではなく、「日本社会が責任を持って設計した制度を、外国人が選ぶ」という考え方を具体的に示すうえで、重要なのが「定着」と「永住」の関係です。
外国人政策を、
外国人を受け入れる
↓
日本に定着してもらう
↓
永住してもらう
いう一本道で考えてしまうと、議論が単純化されます。
そうではなく、
外国人を適切に受け入れる
↓
日本語・法律・社会ルールなどを学ぶ機会を提供する
↓
日本社会で安定して生活できるよう支援する
↓
日本社会のルールを守り、公的義務を適正に果たすことを促す
↓
そのうえで、日本社会の長期的な構成員として生活することが適切と認められる者には、一定の要件の下で永住への道を開く
という循環型の政策として考えるべきではないでしょうか。
ここでは、
定着支援と永住許可は、同じ政策目的でも、同じ政策手段でもありません。
日本語教育や生活支援などによって「定着できる環境」を整えることと、永住許可をどのような条件で認めるかという問題は、分けて考える必要があります。
外国人の定着を支えるのは、永住許可だけではない
日本に長く住みたい外国人の定着を本当に促進したいのであれば、永住許可だけに頼る必要はありません。
例えば、
・日本語学習に対する公的支援
・日本の法律や社会のルールを学ぶための教育・情報提供
・生活相談
・就労相談
・行政手続の支援
・子どもの教育支援
・地域社会との接点づくり
・企業に対する支援
など、様々な政策手段があります。
つまり、
「日本に定着してください」
と言うだけではなく、
「日本社会に適切に定着できるよう支援する」
という政策を充実させることです。
その一方で、
「日本社会の長期的な構成員として生活することが適切と認められる外国人には、明確で予見可能な永住への道を用意する」
という制度を整える。
これならば、
「定着促進」と「永住許可の適正化」
を両立させることができます。
日本版ルール主義が目指す「選ばれる国」とは
ここまでの議論を整理すると、私は「外国人に選ばれる国」という言葉そのものを否定しているわけではありません。
問題は、
何のために、誰が、誰に選ばれる制度をつくるのか
ということです。
日本が外国人に選ばれることを最上位の政策目標にしてしまえば、日本社会の側が外国人の希望に合わせて制度を変更していくことになりかねません。
しかし、それでは政策の主体と客体が逆転してしまいます。
日本の外国人政策の主体は、日本社会です。
日本社会には、
「どのような社会をつくるのか」
を決める責任があります。
その責任に基づいて、
「どのような外国人を、どの程度受け入れ、どのような条件の下で在留を認め、どのような場合に長期的な定着や永住を認めるのか」
を制度として明確にする。
その制度に納得した外国人に、
「日本を選んでもらう」
のです。
私は、これこそが日本版ルール主義にふさわしい「選ばれる国」の考え方だと思います。
日本社会として「選ぶ」ことと、外国人を「選別する」ことは違う
ここでも誤解を避けるために、もう一つ明確にしておきたいことがあります。
日本社会が外国人受入れ制度を設計するということは、
「日本人が外国人を人間として選別する」
という意味ではありません。
国家には、外国人の入国・在留をどのような条件で認めるかについて、法制度を設計する責任があります。
それは、日本人についても、
どのような資格が必要なのか。
どのような義務があるのか。
どのような行為が禁止されているのか。
というルールを社会として定めていることと同じです。
外国人については、国籍が異なる以上、入国・在留という問題が加わります。
だからこそ、
「どのような外国人を、どのような条件で受け入れるのか」
を、法令と制度によって明確にする必要があります。
そして、そのルールを事前に分かりやすく示す。
恣意的に運用しない。
要件を満たした人には予見可能な形で制度を適用する。
これこそが、ルール主義です。
「日本に来てもらう政策」と「日本で生きてもらう政策」を一体として考える
外国人受入れ政策は、ともすると、
「どうすれば外国人に日本へ来てもらえるか」
という入口の問題に偏りがちです。
しかし、本当に重要なのは、来てもらった後です。
日本で働く。
日本語を学ぶ。
法律を守る。
税や社会保険料などの公的義務を適正に果たす。
子どもを育てる。
地域社会と関係を築く。
必要な行政サービスを利用する。
そして、場合によっては、日本社会の長期的な構成員となる。
この一連の過程を、受入れ、在留管理、社会統合、定住、永住というバラバラの政策として扱うのではなく、一つの政策体系として整合的に設計する必要があります。
その意味で、
「外国人から選ばれること」よりも、「日本社会として責任を持って制度を設計すること」
を先に置く。
その制度に納得する外国人に選んでもらう。
そして、その制度の下で日本社会の一員として適切に生活してもらう。
これが、私の考える日本版ルール主義です。
おわりに――日本社会が責任を持って制度をつくり、その制度に納得する外国人に選んでもらう
これまで私は、このシリーズを通じて、日本の外国人受入れ政策について、
歴史的経緯を振り返り、
制度の現状を確認し、
制度設計上の課題を考え、
そして「日本版ルール主義」という考え方を提示してきました。
その基本にあるのは、
「外国人を受け入れるべきか、受け入れるべきでないか」
という単純な二者択一ではありません。
また、
「外国人から選ばれる国になるべきか、ならなくてもよいか」
という問題でもありません。
私が提案したいのは、
日本社会にとって望ましい外国人受入れ・定着・在留管理の制度を、日本社会自身が責任を持って設計する。
そのうえで、
「この制度なら、日本で生活したい」
と納得する外国人に、日本を選んでもらう。
そして、その制度の下で、
日本語を学び、
日本の法律や社会のルールを理解し、
公的義務を適正に果たし、
安定した生活を築き、
日本社会の一員として生きる意思と能力を持つ外国人を受け入れる。
必要な場合には、そのための社会統合を公的に支援する。
そして、日本社会の長期的な構成員として生活することが適切と認められる外国人には、明確で予見可能な永住への道を用意する。
私は、この順序が重要だと考えます。
日本の制度を、外国人から選ばれるために際限なく変えていくのではありません。
日本社会として責任を持って制度をつくり、その制度に納得する外国人に選んでもらうのです。
これは、外国人を軽視する考え方ではありません。
むしろ、外国人にも日本社会にも、明確なルールと予見可能性を提供するという意味で、双方に対して誠実な政策だと思います。
そして、この考え方は、第23部以降で述べてきた「日本版ルール主義」の制度設計思想ともつながっています。
社会統合を先行させる。
受け入れる外国人集団との質的適合性を考える。
急激な制度変更を避け、漸進的に進める。
政策を検証し、必要なら修正する。
そして、そのすべてを、
「日本社会として責任を持って制度を設計する」
という原則の上に置く。
外国人受入れ政策は、外国人から評価されるための政策競争ではありません。
日本社会が将来どのような社会をつくっていくのかという、私たち自身の問題です。
だからこそ、
「外国人に選ばれる日本」ではなく、「日本社会が責任を持って選択した制度に、外国人にも納得して選んでもらえる日本」
を目指す。
私は、それが日本版ルール主義の考える、これからの外国人受入れ政策の基本姿勢であると考えます。
今後の予告
ここまで私は、29部にわたり、日本の外国人受入れ政策の歴史と制度的課題を振り返り、その上で、私なりの「日本版ルール主義」という制度設計思想と、その基本となる原則を提示してきました。
日本版ルール主義とは、外国人を受け入れるべきか、受け入れるべきではないかという結論そのものを示す思想ではありません。
未来の産業構造や技術革新、社会の変化を、誰も正確に予測することはできません。
だからこそ、不確実な未来を前提として、外国人受入れの規模・構成・速度を慎重に定め、社会統合能力を先行させ、受け入れる外国人集団の特性との適合を図り、漸進的に制度を運用する。そして、その結果を検証し、想定外の問題や制度上の不具合が明らかになれば、必要に応じて軌道修正していく。
私は、このような「制度の作り方」そのものを示す考え方を、日本版ルール主義と呼んできました。
そして、ここから先に問われるのは、
「この制度設計思想を、現実の外国人受入れ制度に当てはめると、具体的にどのような制度になるのか」
という問題でしょう。
例えば、現在の特定技能制度について、日本版ルール主義に基づいて制度設計を行っていたと仮定すれば、どのような制度になっていたのでしょうか。
また、技能実習制度を発展的に解消して創設された育成就労制度についても、同じ問いを立てることができます。
さらに、現在の日本の外国人受入れ政策全体について、日本版ルール主義を前提とするならば、
何を維持するのか。
何を修正するのか。
何を新たに加えるのか。
という具体的な検討も必要になります。
これらは、ここまで提示してきた制度設計思想と基本原則を、現実の政策に当てはめて検討する、次の課題です。
理念や原則を掲げるだけでは、政策にはなりません。
制度設計思想を現実の制度に落とし込み、既存制度を検証し、必要な修正を考える。
ここから先は、「日本版ルール主義とは何か」から一歩進んで、「日本版ルール主義なら、具体的にどう設計するのか」を考えていきたいと思います。

