政策を考えるための視点――出入国・在留管理行政から学ぶ「制度・現実・未来」の見方【第1部】政策は「問題」だけでは語れない――問題意識・原因分析・解決策を分けて考える

はじめに──「正しい問題意識」が、必ずしも「正しい政策」につながるとは限らない

外国人政策をめぐる議論は、近年ますます活発になっています。
SNSを開けば、「偽装難民」「不法残留」「外国人犯罪」「在留資格審査の遅れ」といった話題が毎日のように流れてきます。新聞やテレビでも、外国人受入れに関する報道を目にしない日はありません。
こうした問題に国民が関心を持つこと自体は、ごく自然なことです。
国家には、国民の生命と財産を守り、法秩序を維持する責任があります。したがって、外国人政策について様々な意見が交わされることは、健全な民主主義社会の姿でもあります。
しかし、その議論を見ていて、私は以前から気になっていることがあります。
それは、多くの議論が、次の三つを一緒にしてしまっていることです。
第一に、「何が問題なのか」
第二に、「なぜ、その問題が起きているのか」
第三に、「では、どう解決すべきなのか」
この三つは、互いに関係していますが、同じものではありません。
例えば、
「在留資格の審査に時間がかかっている。」
これは問題の指摘です。
「入管が本気で仕事をしていないからだ。」
これは原因についての推測です。
「だから担当者を入れ替えるべきだ。」
これは解決策の提案です。
ところが、SNSでは、この三つが一続きのものとして語られることが少なくありません。
問題意識が正しいのだから、その原因分析も正しいはずだ。
原因分析が正しいのだから、その解決策も正しいはずだ。
そんな形で議論が進んでしまうことがあります。
しかし、本当にそうでしょうか。
私は、ここに政策論の難しさがあると思っています。

問題意識と原因分析は、別々に検証しなければならない

例えば、
「不法残留者への対応をもっと強化すべきだ。」
「難民制度の適正な運用を進めるべきだ。」
「在留資格審査をもっと迅速にすべきだ。」
これらの問題意識には、私も基本的に賛成です。
行政として真摯に取り組むべき課題だと思います。
しかし、そのことと、
「なぜ改善が進まないのか。」
という原因分析は、別に考えなければなりません。
原因を誤れば、解決策も誤るからです。
例えば、風邪をひいて高熱が出た人がいるとします。
熱があることは誰の目にも明らかです。
しかし、その原因がインフルエンザなのか、新型コロナなのか、細菌感染なのかによって、治療法は変わります。
症状だけを見て薬を決める医師はいません。
政策も同じです。
「問題がある。」
という認識は出発点です。
しかし、その原因を丁寧に分析しなければ、適切な政策には結び付きません。

制度は、「善悪」ではなく「仕組み」で考える

もう一つ、大切だと思うことがあります。
政策は、人の善意や悪意だけで動いているわけではありません。
制度には制度の目的があり、法律には法律の仕組みがあります。
行政は、その仕組みの中で仕事をしています。
そのため、
「担当者がやる気を出せば解決する。」
という問題もあれば、
「法律そのものを変えなければ解決できない。」
という問題もあります。
さらに、
「予算や人員を増やさなければ改善できない。」
という問題もあります。
これらを区別せず、
「行政が本気でやっていないからだ。」
と考えてしまうと、本当の改善策は見えてきません。
行政とは、担当者の意思だけで自由に動く組織ではありません。
法律によって権限を与えられ、その範囲内で職務を行う組織です。
だからこそ、
制度の問題なのか。
運用の問題なのか。
執行体制の問題なのか。
まずそこを整理する必要があります。

本稿で考えたいこと

私は、このあと、SNSでもよく見かける具体的な事例を取り上げながら、
「なぜ、そのような誤解が生まれるのか。」
そして、
「制度を考えるときには、どのような視点が必要なのか。」
について、一つずつ考えてみたいと思います。
もちろん、行政に改善すべき点がないと言うつもりはありません。
むしろ、改善すべき点は率直に改善すべきです。
しかし、その改善を実効性のあるものにするためには、
問題意識と原因分析を区別し、制度の目的と現実の運用を分けて考えること。
それが、建設的な政策論の出発点になると、私は考えています。

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