「制度目的」と「制度内容」は同じではない
SNSには、大きな長所があります。
新聞やテレビでは取り上げられない出来事や、現場の声が瞬時に共有されることも少なくありません。
様々な立場の人が自由に意見を述べられることも、民主主義社会にとって大切なことです。
一方で、SNSという媒体には、どうしても避けにくい特徴があります。
それは、
「結論は伝わりやすいが、その結論に至る制度や仕組みまでは伝わりにくい」
ということです。
短い文章で多くの情報を伝えようとすれば、どうしても制度の背景や例外規定、立法の趣旨などは省略されます。
すると、読んだ人は、
「こういう制度になった。」
という結論だけを記憶し、
「なぜ、その制度が作られたのか。」
「法律にはどのような仕組みが設けられているのか。」
までは理解しにくくなります。
その結果、
制度目的と制度内容が混同されることがあります。
私は、この点が政策論では非常に重要だと思っています。
制度目的と制度内容は区別して考える
法律や制度には、必ず「目的」があります。
しかし、その目的を実現する方法は、一つとは限りません。
例えば、
「交通事故を減らす。」
という目的があったとしても、
速度規制を強化する方法もあれば、
道路を改良する方法もあり、
安全教育を充実させる方法もあります。
目的と手段は同じではありません。
ところが政策を議論するとき、この二つが混同されることがあります。
出入国・在留管理行政でも、同じことが起こります。
具体例 「難民認定申請は二回まで」の誤解
近年、SNSで比較的よく見かけるものに、
「難民認定申請は二回までになったはずなのに、なぜ三回目の申請を受け付けているのか。」
という趣旨の投稿があります。
この疑問を抱くこと自体は、不思議ではありません。
制度改正のニュースだけを見れば、そのように理解してしまう人がいても無理はないでしょう。
しかし、ここには、
制度目的と制度内容の混同があります。
令和5年(2023年)の入管法改正の目的の一つは、難民認定申請を繰り返すことによって送還を回避することを防ぐことでした。
しかし、その目的を実現するために採用された制度は、
「三回目以降の申請を受け付けない制度」
ではありません。
実際には、
一定の場合には、複数回目の難民認定申請中であっても送還停止効の例外を認める仕組み
が導入されたのです。
つまり、
「三回目の申請ができる。」
という事実だけを見て、
「入管は法律を守っていない。」
と考えてしまうのは、制度の目的と制度の内容を取り違えた理解と言わざるを得ません。
ここで重要なのは、「誤解した人を責めること」ではありません。
制度改正のニュースでは、どうしても「難民制度を厳格化」という見出しが先行し、その具体的な制度設計までは十分に伝わらないことが多いからです。
だからこそ、私たちはニュースの見出しだけで制度を理解したつもりにならず、その制度がどのような目的で、どのような仕組みとして設計されたのかまで見ようとする姿勢が大切なのです。
「していない」のではなく、「できない」のでもなく、「そういう制度として設計されている」
このような誤解は、難民認定制度に限ったことではありません。
例えば、
「不法残留者は全員収容すればよい。」
という意見も見かけます。
もちろん、退去強制事由に該当する外国人に適切に対応すべきことは当然です。
しかし、「全員収容しない」という現実だけを見て、
「入管は本気で取り締まる気がない。」
という結論に至るのは、少し慎重になる必要があります。
収容には、施設の収容能力、担当職員の数、送還先との調整、個々の事情の確認など、多くの要素が関係します。
つまり、ここでも問われるべきなのは、
「現場は何をしているのか。」
ではなく、
「現行制度では、何ができて、何ができないのか。」
という視点なのです。
制度を評価するために必要なこと
私は長年、出入国・在留管理行政に携わってきましたが、制度を評価するときに最も大切なのは、
「制度目的」「制度内容」「運用結果」
を分けて考えることだと感じています。
制度には、必ず目的があります。
その目的を実現するために、法律という形で制度内容が定められます。
そして、その制度が現実にどのような結果を生んでいるのかを検証し、必要であれば制度を見直していく。
これが政策の本来の流れです。
ところが、この三つを混同すると、
「期待した結果になっていない。」
↓
「現場が仕事をしていない。」
という短絡的な理解に陥りやすくなります。
しかし、現実には、
制度そのものに課題があるのかもしれません。
予算や人員が不足しているのかもしれません。
あるいは、制度改正後まだ十分な時間が経過しておらず、その効果を検証する段階なのかもしれません。
だからこそ、政策を論じるときには、「結果」だけではなく、その背景にある制度設計にも目を向ける必要があるのです。
おわりに
政策は、見出しだけでは理解できません。
SNSは、多くの情報を迅速に届けてくれる一方で、制度の背景や立法趣旨まで伝えるには限界があります。
だからこそ、私たちは一歩立ち止まり、
「この制度は、何を目的として作られたのだろうか。」
「その目的を実現するために、どのような仕組みが採用されているのだろうか。」
という視点を持つことが大切です。
制度目的を理解すると、それまで「おかしい」と思っていたことが、「なるほど、そういう理由があったのか」と見えてくることがあります。
政策を正しく評価する第一歩は、制度の結果だけでなく、その目的と仕組みにも目を向けることなのです。
